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“茶髪にグラサンで区間賞”箱根駅伝の異端児・徳本一善が経験した大炎上「批判が半端なくて、非国民みたいになりました」 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byMutsumi Tabuchi

posted2022/01/01 11:05

“茶髪にグラサンで区間賞”箱根駅伝の異端児・徳本一善が経験した大炎上「批判が半端なくて、非国民みたいになりました」<Number Web> photograph by Mutsumi Tabuchi

駿河台大監督の徳本一善。21年前の箱根駅伝では、茶髪にサングラス姿で区間賞を獲得し一躍時の人となった

「29分50秒です」

「全然かすりもしてないじゃん。ダメに決まってんだろ」

 徳本と選手の約束――。

 どんなスポーツにもトップレベルで戦おうとするなら才能は必要だ。ただし、長距離走は練習と節制なくして結果を出せるような競技ではない。5000mを13分台、もしくは10000mを28分台で走れるということは何よりもその選手の自律の証明になるというのが徳本の考えだった。

 自分で責任を取れるレベルにある選手であれば例外は認める。「今日は彼女とデートに行きます。明日練習頑張るんで行っていいですか?」と聞かれたら「いいよ、行ってこい」と送り出してきた。

 それは学生時代に破天荒な存在として知られた徳本らしいルールでもあった。

茶髪&サングラス「でも、みんなそうだったんですよ」

 法政大学2年生だった2000年の箱根駅伝、茶髪にサングラス姿でスタートラインに現れた徳本は大学駅伝の枠からはみ出していた。今では当たり前になっているとはいえ、当時の学生は誰もサングラスなどかけていなかったからだ。

 しかも、そのいでたちで1区区間賞。2区では4年の坪田智夫がまたしても区間賞。優勝候補の駒大や順大を向こうに回しての法大の快走は、『オレンジエクスプレス』『オレンジ旋風』と呼ばれて大きな脚光を浴び、茶髪の爆速王も多くのメディアに取り上げられた。

「法政では(1学年上の)為末大さんも金髪にピアス。短距離の人はみんな茶髪だった。箱根駅伝で見ると僕だけだけど、法政のくくりで見ると僕だけが突っ走っていたわけじゃなくて、みんなそうだったんですよ」

 ただ、そのスタイルを箱根駅伝で貫いたことによるハレーションは想像以上に大きかった。しかも徳本はランナーとして世代を代表するような実力者でもある。単なる目立ちたがり屋のパフォーマーではなかったからこそ、賛成にしろ反対にしろ見ている人にとって簡単に受け流すことのできない存在になっていった。

 前年よりもさらに赤みを増したオレンジヘアで現れた3年時には、2区で駒大・神屋伸行とのデッドヒートを制してチームを首位に押し上げる。直後の中継所からのテレビインタビューは、走り以上にそのキャラクターを印象付け、人々の反感に油を注いだ瞬間かもしれない。

月光仮面の誕生秘話「あれは準備していたわけじゃなくて」

 テレビ画面に現れた徳本はまるで宇宙人のようだった。サングラスを頭の上から被るタイプに取り替え、実況アナはその珍妙さを「月光仮面のような」と言い表した。新春の朝、こたつでぬくぬくとしていた駅伝ファンはお屠蘇を吹き出しただろう。

「あれは準備していたわけじゃなくて、オークリーの人にゴールしてすぐに『こういうのあるからどう?』と渡されたんです。あれだけかけると髪が変な感じになるんですけど、ニット帽の上に被ったら、まあかけられるじゃんって。オークリーはすごく好きだったし、いつか契約してもらいたいとも思っていた。どうしたら僕に商品価値を見出してくれるのかなということを考えてもいました」

【次ページ】 4年目のブレーキ、そして大炎上

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