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“茶髪にグラサンで区間賞”箱根駅伝の異端児・徳本一善が経験した大炎上「批判が半端なくて、非国民みたいになりました」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byMutsumi Tabuchi
posted2022/01/01 11:05
駿河台大監督の徳本一善。21年前の箱根駅伝では、茶髪にサングラス姿で区間賞を獲得し一躍時の人となった
元々の性格や物の考え方、若さゆえの功名心もどこかにあったはずだ。ともかく徳本は反発を恐れず偽悪的な態度で突っ走ることを選んだ。反動ももちろんあった。キャプテンを務めた4年時は2区で右ふくらはぎの肉離れを起こして途中棄権。当時まだ珍しかった個人サイトの掲示板には、それ見たことかと罵詈雑言が飛び交った。まだそんな言葉はなかったが、“大炎上”したのだ。
「批判が半端なくて、非国民みたいになりました。僕の言っていたことが鼻についたんでしょう。それは僕もわかった上であえてやっていましたからね」
相当に極端な例とはいえ、徳本にとって“自由”とはそれだけのリスクを受け入れる覚悟と責任を背負った上で享受できるものだった。
それを学生たちは、何の覚悟もなく、結果も残さないまま約束の時間を破った。彼らは酒を飲んだりしていたわけではない。ただ、集まってぐだぐだと話していただけである。だからといって徳本が納得するはずもなかった。
「もう1回信頼を得ようと思ったら大変だぞ」
監督室に来て、謝り続ける阪本にはこう言った。
「とりあえず部屋に戻れ。俺も冷静になりたい。いいか? 人の心って簡単に離れるけど、もう1回信頼を得ようと思ったら大変だぞ。それはわかっててくれ。俺はもうお前のこと信じてないから」
「わかりました。ちゃんとやりますから」と何度も頭を下げて阪本は自室へと戻った。現在のチームのスタートはそんな波乱含みだったのである。
最初の約束はあっさり破った阪本だったが、意外にも次の約束はきちんと守った。箱根初出場を決めた今、徳本はキャプテンとしての阪本についてこう評価するようになっている。
「阪本は阪本なりに先輩の石山をずっと見てきて、そのキャプテン像に負けたくないというのがあったみたい。本当によく勉強した。僕は何年か心理学の本を読み漁った時期があったけど、そういう話を聞きにくるのはだいたい阪本。あいつもいっぱい知識が入っちゃってるから、教えるのが上手くなったし、周りにかける言葉も以前とは変わってきている」
徳本の部屋にはひっきりなしに学生がやってくる
シューズや洗濯物が床やソファの上に散乱し、お世辞にも整理整頓されているとはいえない徳本の部屋。そこには阪本だけでなく他の学生たちもひっきりなしに訪れる。その目的はさまざまだ。泣きながら相談に来る者、YouTuberの話をしにくる者、監督室のプリンターで授業の課題を印刷しにくる者。