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「美しくないとイヤだ」現役時代のイチローが高校野球を頑なに見なかった理由《19年にわたるメジャー生活を支えた“強烈な美意識”》
posted2021/12/16 11:07
text by
小西慶三Keizo Konishi
photograph by
Takuya Sugiyama
2001年から19年間にわたるメジャーリーグでの戦いを克明に記録した『イチロー実録 2001-2019』より、松坂大輔とのメジャー初対戦やオールスター史上初のランニングホームランが飛び出した「2007年シーズン」の章の一部を特別に紹介する。(全2回の2回目/新記録樹立編から続く)。
「対戦を考えると、すごく興奮してくる」
2007年1月10日、神戸での自主トレ公開日。イチローはレッドソックスに加入する松坂大輔について、そう熱く語っていた。
7年越しの対決が実現したのは、4月11日のフェンウェイ・パークだった。ESPNやUSAトゥデイなど、米主要スポーツメディアが2人の対戦を数日前から特集。日本ではイチローの第1打席がNHK『おはよう日本』内で中継され、瞬間最高視聴率15・4%を記録した。
だが、プレーボール直後に松坂が投じたのは力いっぱいの直球でも、1999年の初対戦でイチローを翻弄したスライダーでもなく、カーブ─捕手ジェイソン・バリテックのサイン通りに投げられた初球についてイチローは試合後、苦笑していた。
「ちょっと……冷めました」
アメリカで、投手と打者の個人対決にスポットライトが当たるのは珍しい。舞台は整った。そこで示すべきは、互いの心意気じゃないのか――。イチローのつぶやきには4打数ノーヒットの結果よりも、物語の作り手としての悔しさがにじんでいたように思えた。2人の日米での対戦をすべて目撃してきた取材者にとっても、どう形容すればよいのか分からないメジャー初対決だった。
「(自分のプレーは)美しくないとイヤだ」
イチローが自分のプレーを「作品」と呼ぶようになったのも、この2007年あたりからだった。
同年取材ノートには、自分の一つひとつの動きが第三者の目にどう映るかを意識したコメントや、「冷めました」のように、感じたことをそのまま表した言葉が増えていた。
キャンプでは「(自分のプレーは)美しくないとイヤだ」と話した。見たいと思わされる外野手は誰か、と聞いたときの答えはこうだ。
「(ケン・)グリフィー(・ジュニア)がそういう選手だったと思います。トータルで、バランスよく表現できる人でしょう。僕は力強さとか大きさにインパクトを感じない。日本では秋山(幸二)さんがきれいでした。僕とは違うかたちで美しさを表現されていたと思います」
柔らかい動きの大切さは以前も口にしていたが、それを「美しさ」とまで踏み込んで表現したのは初めてだった。
美しくないものは見ない。そんな発言があったのは6月17日、ヒューストンでのアストロズ戦。交流戦で、投手が打席に立つことについて話したときだった。
「ファウルが飛んでくるかもしれないので見ざるをえない。でも、目に入れるのがすごくイヤだ」と顔をしかめた。
「(試合前の打撃練習でも)ピッチャーが打つところも絶対に見たくない。下手なものを見ると(自分の動きに)影響する可能性がある」