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「美しくないとイヤだ」現役時代のイチローが高校野球を頑なに見なかった理由《19年にわたるメジャー生活を支えた“強烈な美意識”》
text by
小西慶三Keizo Konishi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/16 11:07
メジャー7年目の2007年には両リーグ最多安打やオールスターMVPなどを受賞したイチロー
高校野球を「意図して見なかった」理由
この日の取材で、イチローがプロ入り後、金属バットの打球音を嫌い、高校野球やソフトボールのテレビ中継を意図して見なかったことを知った。プロでも下手な外野手の守備は、なるべく視界に入れないようにしていたという。彼は常に「作品」の素になる感性を大事にしていた。
なぜ、独自の美意識を公言するようになったのか。本人から聞いたことはないが、2006年WBCで一緒だった王貞治監督の存在が大きかったのではないかと思った。常に最高の結果を求められる者としての苦悩、価値観を王監督と共有できたことで、イチローは自らの感性に自信を深めたのではないか。
出場66試合にしてリーグ最速でシーズン100安打に到達、7月1日にはファン投票で7年連続のオールスター出場も決まった。
「日本での数字(7年連続)に並ぶことは目標のひとつだったのでホッとしています。(ファンからの支持は)僕にとって最も大事なもの。常に見られているという意識は、僕からは外せない」
“オールスター史上初のランニングホームラン”
オールスターは7月10日、サンフランシスコのAT&Tパークで行われた。1番センター、イチローのハイライトは5回の第3打席に訪れる。内寄りの速球を完璧にとらえた直後だった。
勢いよく上がった打球に、球場がどよめく。ボールは右中間フェンス上部を直撃、そこで一気に加速したイチローに再び大歓声が注がれた。
「(スタンドまで)行った、と思ったのに……疲れちゃって大変ですよ、イヤな球場ですねえ」
ライト線方向に跳ね返ったボールを、右翼手グリフィーが追う。その間、イチローは伸びやかにダイヤモンドを駆け抜けた。オールスター史上初のランニングホームラン――。スイングからホームインまでの約16秒間は、イチローの代表作のひとつになった。
イチローにとっての「オールスターの価値」
彼は以前、オールスターの価値を「あの日が終われば何事もなかったようにはかなく消えてしまう。でも、一瞬で消えてしまうからこそ、尊さのようなものがある」と話していた。
しなやかに、そして力強く三塁を蹴った一瞬が、その言葉と見事にシンクロしていた。
3安打2打点。第1打席はファーストストライクを狙ってライト前にクリーンヒット、第2打席は外角低めの変化球をサード後方に落とす巧打だった。
「どれも作品という感じです。いっぱいいっぱいのヒットはない。これまでの6年間とは違う自分がいることを、オールスターでも感じることができました」