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「私は叱ります」ロシア国内でも賛否両論…“女子フィギュアの世界を変えた”鬼コーチ・エテリとは何者か? 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2021/11/15 17:01

「私は叱ります」ロシア国内でも賛否両論…“女子フィギュアの世界を変えた”鬼コーチ・エテリとは何者か?<Number Web> photograph by Asami Enomoto

昨今の「女子フィギュアの黄金期」を支えるロシアのエテリ・トゥトベリーゼ

 以前、ジュニアグランプリシリーズで優勝するなど将来を嘱望されていたダリア・パネンコワはエテリの言葉にしばしば傷ついたこととともに、1日の食事がサラダのみである時期もあったと言う。

「『1kgやせるように』と言われたら、どんな手段でも、やせなければなりません」

「軽い方が跳びやすい」としばしば言われるが、パネンコワはエテリのもとを離れ、17歳で引退することになった。その理由については「心の問題」もあげている。

 思えば、ソチ五輪で活躍したリプニツカヤも摂食障害に苦しむなどして19歳で引退している。

時代に逆行する指導「選手の競技寿命に関心がないのか?」

 ロシアに限らず、摂食障害に陥った選手はこれまでもいて、その問題が認識され、改善が試みられてきた。無理な体重制限は、選手の身体のみならず精神面にも悪影響を及ぼすことはすでに知られている。エテリの指導はそれに逆行するようでもあるが、「子ども」と呼ぶような年代から十代前半でも体重の管理を徹底することで、高難度のジャンプを習得させているのも事実だ。結果、選手たちは十代半ばにして世界のトップを争う位置に昇りつめる。

 ただ、成長途上だから身長も伸び、厳しい体重管理をしながらジャンプの修正に悩まされ続ければ、精神的な消耗を避けられない。早々に退く教え子が少なからずいることから、ロシア国外から「成長期にあるスケーターの問題に対処する引き出しがないのではないか」という声も聞こえる。いや、そもそも選手の競技寿命に関心がないのではないかと見る向きもある。リプニツカヤに始まり、十代半ばで活躍した選手が沈んでも、ジュニアから後を継ぐ選手が出てきて活躍する。そのサイクルの維持しか関心がないのでは、という見方だ。

 以前に、エテリがクラブを「工場」、選手を「原材料」と表したことがあるというが、それも批判の声に拍車をかける。

それでも現門下生は「何もトラブルはありません」

 NHK杯にエントリーしていたトゥルソワは怪我の影響で欠場。ワリエワとともにシニアデビューシーズンにあり、優勝候補の1人と目されていたダリア・ウサチョワは演技直前の6分間練習で負傷し棄権をよぎなくされた。

 ペアで2位となったエフゲニア・タラソワ、ウラジミール・モロゾフもエテリの指導を受けている。コーチについて尋ねられると、モロゾフは最初に「今シーズン、その質問をよく受けます」と話し、こう続けた。

「すべての選手とともにたくさんの練習をしてくださっています。何もトラブルはありません」

 選手たちに同行し来日したエテリは、会場に入るときも出るときも、表情を緩めることはなかった。周囲の目線はどうあれ、屹立しているようであった。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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