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「獲物を狙うような表情で…」宇野昌磨が“スケートを楽しめない時期”を超え、成長を誓った“本当の理由”〈NHK杯優勝→GPファイナルへ〉
posted2021/11/16 11:02
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Aasami Enomoto
11月12日、代々木第一体育館で開催されたNHK杯男子ショートプログラム(SP)。11人中10番目の滑走だった宇野昌磨は、「オーボエ協奏曲」の音色に合わせてミスのない演技を見せた。冒頭の4フリップをきれいに降り、4+2トウループ、後半の3アクセルと全てのジャンプを成功させ、身体全体を伸びやかに大きく使って緩急をつけた品格のある演技。だが演技を終えた宇野は、スタンディングオベーションの観客に挨拶をしながら笑顔を見せなかった。
コーチのステファン・ランビエルの方を向くと、初めてくしゃりと表情を崩し、苦笑いをして頭をかいた。102.58で1位。国際大会のSPで100点越えをしたのは2018年9月のロンバルディア杯以来だ。それなのに、ガッツポーズをとるでもなく、淡々とした表情を変えなかった。
宇野が1位のSPで「不服」だった理由
「率直な感想としては、出来のいい悪いではなく、どんな理由であれダブルにしてしまったということが悔しいというか、良くないな、と。今シーズンまだまだ長いですし、まだまとめに行く時期ではないとわかっていながらも、4トウループの空中で気持ちにブレが出てしまった。挑む気持ちが少し足りなかったのかなと思います」
演技後にこう感想を述べた宇野。「ダブルにした」とは、4+3を予定していたコンビネーションが、4+2になってしまったということだ。3週間前のスケートアメリカでは、久々にSPで4+3トウループを成功させたことの、満足感を口にしていた。だが全体的に見れば、ここでのSPの方が出来栄えは数段上で得点にもそれは明白に出ている。
「改めてこのショートプログラムを振り返ってみればいい演技だったのかもしれません。でも今ぼくがこうして不服に思っているというのは、今いい演技をしたいというよりも成長できる試合にしたいから。いい演技をしたいとは思っていますが、失敗してでも成長できるようなフリープログラムをしたいと思います」
今の宇野にとって、重要なのは目先の結果ではないと明言した。