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「私は叱ります」ロシア国内でも賛否両論…“女子フィギュアの世界を変えた”鬼コーチ・エテリとは何者か?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2021/11/15 17:01
昨今の「女子フィギュアの黄金期」を支えるロシアのエテリ・トゥトベリーゼ
現在は47歳、エテリは幼少期にスケートを始め、ロシアを代表する指導者の1人、タチアナ・タラソワらさまざまなコーチに教わりながら選手として活動した。大成はしなかったが、アメリカに渡ったあと、かの地で指導の道に進んだ。その後、帰国し今日に至る。
指導の内実はあまり明らかではないが、コーチを務めるアスリート養成学校「サンボ70」は充実した環境を誇る。バレエやダンス、ウェイトトレーニングのためのルームが備えてあり、リンクでの練習に加え、多角的なトレーニングを選手は受けられる。また、ジャンプのコーチなどスタッフも多い。子どもの頃から指導する選手もいれば、中途で他のクラブから移ってくる選手もいる。
「なぜ厳しいコーチと呼ばれるのでしょうか?」
その環境のもと、指導はしばしば「厳しい」と表現されてきた。氷上練習に限っても、休みをとらずに1時間半滑り続ける練習を午前と午後に実施するという。子どもであっても容赦せず、泣き出す選手も珍しくない……など、さまざまなエピソードが伝えられる。ロシアメディアの取材でその点を尋ねられたとき、このように答えている。
「日常生活の話に例えてみましょう。両親は自分の子どもを毎朝起こし、学校へ行かせます。帰宅すれば授業の様子を確認し、喫煙や飲酒をしないかどうか、夜ふかししないか気を付けています。それが厳しい両親なのでしょうか。いえ、自分の子どもを愛し、自分の責任を果たしている両親です。なぜ、自分の生徒を愛し、自分の責任を果たすコーチが厳しいコーチと呼ばれるのでしょうか?」
怒鳴ることについてもこう反論する。
「あなたの息子が何もやりたがらないとします。叱るか、それとも、まあいいと言うのか。落第点をつけられたとき、よしとするのか、叱って勉強させるのか。私は叱ります。『やりたくない』を超えてやらなければならないことをやらせるためです。それだけです」
元門下生が明かす“厳しい体重制限”
指導の内容についてあいまいな部分もある中、「選手のキャリアを短くしている」ことに批判の中心がある。
その要因として、選手に強いる体重制限についてしばしば取り沙汰されてきた。ザギトワは、平昌五輪のときには「水も飲まなかったと言っていいかもしれないくらいでした。口に含んで、飲みませんでした」と明かしている。また、100gの体重変化にも日々、神経をつかった時期があることも語っている。