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井上尚弥でも進まない「統一王者」を“たった1年弱”…カネロはなぜ実現できたか?〈意外と知らない複雑なFA事情〉
posted2021/11/11 17:04
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Getty Images
「歴史的な夜になったことに感謝している。私がその一部になれたことを誇りに思うよ」
試合終了から約1時間半――。やっと会見場に現れたサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)は上機嫌で、彼にしては饒舌で、謙虚だった。そんな姿は、スーパーミドル級の王座統一が簡単な作業ではなかったことを物語っているのだろう。
史上初のスーパーミドル級4団体統一王者に
11月6日、ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナで行われた世界スーパーミドル級4団体統一戦で、WBC、WBAスーパー、WBO王者のカネロはIBF王者ケイレブ・プラント(アメリカ)に11回1分5秒TKO勝ちを収めた。IBF王座も吸収して4団体統一王者となり、ほとんどがカネロファンだった1万6586人の観衆を熱狂させた。
「プラントはすごい選手。良いボクサーだったし、健闘したと思う」
カネロは対戦相手を素直に讃えたが、実際に一方的な戦いだったわけではない。身長で約12cm上回るプラントのサイズと守備的な戦い方に少々手を焼き、序盤から中盤は攻めあぐねるシーンも見られた。中盤以降にポイントは抑えてはいても、チャンピオンシップラウンズと呼ばれる最後の2ラウンドを迎えるあたりでは判定勝負の雰囲気も漂っていた。
しかし、多少の時間はかかろうとも、最終的にはしっかりとハイライトシーンを導くのが昨今のカネロである。11回も約30秒が経過したところで、シグネチャーパンチになりつつある鋭角の左フックをきっかけにダウンを奪う。大歓声の中で、追い討ちの連打で2度目のダウン。ここでラッセル・モーラ・レフェリーがストップをかけ、史上初のスーパーミドル級4団体統一戦に劇的な形で終止符を打った。
売り出し中の頃は“話題先行な選手”だった
長身、身体能力、アウトボクシングの技術を備えたプラントはもともとカネロが苦手としていたタイプであり、ミドル級時代までなら大苦戦していたかもしれない。ただ、減量の負担が減った影響か、スーパーミドル級に上げて以降のカネロはスタミナの不安が薄れ、同時にパンチの迫力が増した印象がある。おかげで前戦のビリー・ジョー・サンダース(英国)、今回のプラントのような実績あるアウトボクサーでも、フルラウンドにわたってさばききるのは難しくなった。