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井上尚弥でも進まない「統一王者」を“たった1年弱”…カネロはなぜ実現できたか?〈意外と知らない複雑なFA事情〉
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2021/11/11 17:04
史上2位の超スピードで「スーパーミドル級統一王者」となったカネロことサウル・アルバレスと、井上尚弥
カネロ自身のそんな言葉からも伝わってくる通り、31歳で今が全盛期のメキシカンは王座統一に並々ならぬ熱意を燃やし、昨年12月、今年2月(WBC指名戦)、5月、11月と異例に感じられるほどのハイペースで試合をこなしていった。
王座統一を難しくさせる“ボクシングのFA事情”
トップファイターは年2試合が通例になった現代。今戦では最低でも4000万ドルという高額報酬を保証されたほどの商品価値を持ちながら、カネロはパンデミックの最中でも可能な限り頻繁にリングに上がる意思を示し続けてきた。各団体から定期的に指名戦を義務付けられることが統一王者路線の難しさの一つだが、着々と試合消化したおかげで、WBC以外の指名戦でがんじがらめにされることもなかった。
また、今のカネロは特定のプロモーションに所属せず、フリーエージェント(FA)の立場にいるのもマッチメイクが円滑に進んだ要因に違いない。カネロは'18年秋に一時はゴールデンボーイ・プロモーションズ/DAZNと合計11戦3億6500万ドルという長期契約を結んだが、約2年後にこの契約を破棄。以降、1~2戦の短期契約にこだわり続けている。おかげでスミス、サンダースとの対戦時はDAZNの独占配信、今回のプラント戦はShowtimeでPPV放送と、カネロ戦の中継局、プロモーターはフレキシブルだ。
そんなことが可能ならばなぜ他のボクサーもFAにならないのか。そう思うファンは多いかもしれないが、カネロの件はそれぞれにメリットがあるがゆえに可能になった特例であり、実際には一度契約書にサインした選手がそれを破棄してFAになるのは簡単ではない。そして、ほとんどの選手にとって、特定のプロモーター、テレビ局から長期視野でプッシュを受けることの意味は依然として大きいのが現実だ。
最近の例では、WBO世界バンタム級王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)がMPプロモーションズと一時的に仲違いしたため、まだ契約内にもかかわらず12月に予定する指名戦の入札でサポートが得られなくなったケースがあった。
おかげでカシメロは次のポール・バトラー(イギリス)戦を、実に10万ドル以下という低額報酬でこなすことになりそうだという。独立を強行した時にこんな事態にならないのは、1、2戦の契約でもプロモーター、局側にメリットがあるドル箱選手だけ。中でもカネロは現代における希少な例だと言えよう。
なぜ井上尚弥の統一戦はなかなか実現しないのか?
日本のファンは、同じく4団体統一を熱望するWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)の統一戦がなかなか実現せずにヤキモキしているところだろう。井上の場合、新型コロナウイルスに前途洋々のキャリアを邪魔された感がある。