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井上尚弥でも進まない「統一王者」を“たった1年弱”…カネロはなぜ実現できたか?〈意外と知らない複雑なFA事情〉 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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posted2021/11/11 17:04

井上尚弥でも進まない「統一王者」を“たった1年弱”…カネロはなぜ実現できたか?〈意外と知らない複雑なFA事情〉<Number Web> photograph by Getty Images

史上2位の超スピードで「スーパーミドル級統一王者」となったカネロことサウル・アルバレスと、井上尚弥

「規律正しくいることを心がけてきた。それと同時に、私はボクシングへの愛を失ったことはない。16歳の頃と同じ愛情を保っているよ。そうやって愛情、規律、情熱を保ってきたがゆえに、今、ここにいられるのだと思う」

 そんな本人の言葉通り、ここまで上達する要因になったカネロのボクシングに対する献身的姿勢は讃えられてしかるべき。売り出し中の頃は話題先行の印象が強く、筆者もまた過大評価されたボクサーだと思っていた。薬物問題でのダーティなイメージも完全には消えない。しかし、メキシカンアイドルの最近の成長度は多くの関係者の予測を上回り、パウンド・フォー・パウンドでもNo.1の称号がふさわしいボクサーとして地位を確立したといえるのだろう。

4冠王者まで「1年足らず」“史上2位のスピード”

 今回の勝利でカネロは晴れて史上6人目、WBCはフランチャイズ王座だったテオフィモ・ロペス(アメリカ)を含めれば7人目の4団体統一王者になった。特筆すべきは、メキシコの英雄はこの階級の4本のベルトを1年足らずで集めたことだ。昨年12月にカラム・スミス(イギリス)を大差判定で下してWBAスーパー、WBCタイトルを獲得すると、5月にはWBO王者サンダースを8回TKOで粉砕。そして、11月6日の今戦で統一ロードは完遂した。

 歴史を紐解くと、初の4冠王者であるミドル級のバーナード・ホプキンス(アメリカ)は1995年4月にIBF王者になると、2001年4月にWBC王座、同年9月にWBA王座、’04年9月にWBO王座と実に10年近い時間をかけてタイトルをコレクトしていった。以降の4冠王者たちも、その階級での初戴冠から統一までに、スーパーライト級のテレンス・クロフォード(アメリカ)は約2年4カ月、クルーザー級のオレクサンデル・ウシク(ウクライナ)は約1年10カ月、スーパーライト級のジョシュ・テイラー(イギリス)は約2年の期間を必要としている。

 2019年12月にIBF王座を取った後、翌年10月に3つのタイトルを持っていたワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を下してたった10カ月で4冠王者になったロペスに次いで、カネロは史上2位のスピード記録となる(注・4つのタイトルを持っていたホプキンスに勝って4冠王者になったジャーメイン・テイラーは除く)。ロペスは2戦で4団体統一王者となったのに対し、カネロは約11カ月で3人のタイトルホルダーを撃破した。その3人すべて無敗王者だったのだから、レジュメの濃さは出色という以外にない。

「統一王者になったことはメキシコの歴史にとって大きな意味がある。ボクシングの歴史で6人だけ。ハッピーだし、これもまたモチベーションになる」

【次ページ】 王座統一を難しくさせる“ボクシングのFA事情”

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