酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
新庄監督や立浪監督と比べてシブい人選だが… 藤本博史監督57歳が「ホークスの伝統」を継ぐ適任者なワケ《若き柳田悠岐らを育成》
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKoji Asakura
posted2021/11/02 11:07
ダイエーで現役時代の藤本博史。監督としてホークスの次代を築き上げられるか
「教頭先生」のような感じで柳田らを育成していった
筆者はなんとなく「教頭先生」という雰囲気を感じたものだ。若い選手にこまごまとしたことは言わずにゆったりと全体に目配りをしている印象である。
柳田悠岐らを筆頭に現在活躍しているホークスの打者は藤本が育成したと言われているが、技術を教えるというより、選手が自分で学ぶことができる環境を作っているのではないかと思う。それと同時に、藤本自身は見るたびに体が大きくなっていくような感じがしたのだが。
今季の藤本は二軍の監督を務めた。筑後の立派な二軍のスタジアムでも何試合か観戦したが、8月に見たときは二軍でくすぶっていたバレンティン、東京五輪予選に出てキューバから帰国したばかりのデスパイネと並んで砂川リチャードが中軸を打っていた。
リチャードは前年から春季キャンプの打撃練習ではケタ外れの打球を飛ばしていたが、まだまだ荒っぽかった。しかし今年は少なくとも二軍では大物外国人と遜色ない打撃をしていた。
ほどなくリチャードは一軍に昇格し、プロ初本塁打を打って来期に期待を抱かせる打者へと成長したのだ。
前任者の工藤監督も、またプロ野球の概念を変えた
彼らを育成した藤本に指揮官の座を引き継いだ工藤公康という監督も、プロ野球の監督の概念を変えた人だと思う。
就任前の2013年に筑波大学大学院人間総合科学研究科で川村卓准教授の元、コーチングなどを体系的に学んでいる。佐々木朗希を教える吉井理人現ロッテコーチや、仁志敏久現DeNA二軍監督なども同窓だ。その後、プロ野球関係者が続々と筑波大学大学院で学ぶようになるが、工藤公康はそのきっかけを作った人なのだ。
在学中の元プロ選手の中には「おい、グリーン車には学割効かないのかよ」と同じ研究室の若い学生に言って笑われた、みたいなエピソードもあるが、意識の高い元プロ野球選手は今や「学ぶ人」になっているのだ。
翌年にソフトバンクの監督になったが、工藤公康にとってホークスは大学院で学んだコーチングの実践の場だったのだ。セオリー通りにいかない部分もあっただろうが、経験や習慣ではなくスポーツの理論と科学的分析でチームを運営したのだ。
筆者はソフトバンクの現役投手コーチに指導法を聞いたことがあるが、一流選手には手取り足取り指導することはなく、選手が自分で欠点を修正したり、進化したりするための「きっかけ」を、最低限のアプローチで与えるということだった。そして「コーチの役割は、ひたすら選手を見ること」だといった。これも工藤監督の考えに基づくのだろう。
チームは違うが、ロッテの吉井理人コーチにも『最高のコーチは、教えない。』という著書がある。
話を藤本に戻そう。