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あの<夏の密会>からすべては始まった…ホンダとレッドブルを結びつけてチームを育てた、山本雅史MDの信頼を生む仕事とは
posted2021/10/27 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
10月24日決勝のアメリカGP。ルイス・ハミルトン(メルセデス)の猛追を1.3秒差で振り切って、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がトップでチェッカーフラッグを受けると、チーム代表のクリスチャン・ホーナーは無線でドライバーへ祝福のメッセージを贈った後、こう続けた。
「今日の表彰台には、ヤマモトさんに上がってもらう」
「ヤマモト」とは、ホンダF1のマネージングディレクター(MD)を務める山本雅史のことだ。
F1の表彰式では、コンストラクターズ選手権の優勝トロフィを受け取るため、優勝チームからドライバー以外にも1人の登壇が許されている。
ドライバー以外の日本人がF1の表彰式で登壇したのは、06年のハンガリーGPで優勝したときの福井威夫社長(当時)が初めてだった。
その後、15年にF1に復帰していたホンダがレッドブルと組んだ19年には、復帰後初優勝を遂げたオーストリアGPで、田辺豊治F1テクニカルディレクターが日本人として2人目となる表彰台を経験。田辺は今年のオーストリアGPでも登壇し、今回の山本は日本人として3人目、通算4度目の表彰台となった。
06年はホンダがB·A·Rを買収し、チームとして参戦を開始した年で、コンストラクターを代表して表彰式に参加する人物はホンダが決定できた。そういった背景もあって、ハンガリーでは福井がスタッフたちを激励するために登壇した。
信頼のおけるパートナーだから
しかし、その後の3回については、ホンダはパワーユニットマニュファクチャラーとしてF1に参戦している立場なので、優勝しても表彰台に上がる権利はない。したがって、田辺が上がった2回も今回の山本の登壇も、すべてレッドブル側の配慮だった。
ホーナーはその理由を次のように話す。
「現在、われわれは13年以来、8年ぶりのチャンピオンを目指してドライバーズタイトル争いのリーダーに立っているが、それを可能にしている大きな要因はホンダが素晴らしいパワーユニットを供給してくれていること。さらにホンダはエンジニアと協力して、そのパワーユニットを最高の状態で使用できるよう現場で調整してくれている。ホンダは単なるパワーユニットマニュファクチャラーではなく、信頼のおけるパートナーだ。だから、レッドブル・ホンダの一員として、表彰台に上がってもらった」
ホーナーの言葉通り、レッドブル・ホンダがチャンピオンシップでリーダーに立つ原動力はパワーユニットに違いない。F1ラストイヤーのために1年前倒しで投入された新コンセプトのパワーユニットは、最強だったメルセデスのエンジニアに「性能面でわれわれと完全に肩を並べた」と言わしめたほどだ。