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「ありがとう日本」…チャーター便を飛ばしてまで1レース限りのスペシャルカラーを実現させた、レッドブル・ホンダの愛と情熱
posted2021/10/13 06:01
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
トルコGP決勝当日の午前中、ファンとの公開オンラインライブセッションに、ホンダF1のマネージングディレクターを務める山本雅史と共に参加した田辺豊治F1テクニカルディレクターは、ライブセッション中に画面に映ったある光景を見て、思わず目頭を熱くした。
「鈴鹿のグランドスタンドの光景が映ったんです。レースが行われていない鈴鹿サーキットに、ホンダのユニフォームやマックスのオレンジのユニフォームを着たり、あるいはレッドブルのウェアや、アルファタウリだったりトロロッソのウェアを着たファンの方が座っていたことに正直驚いたし、本当にうれしかった」
10月10日は本来であれば、鈴鹿サーキットで日本GPの決勝レースが開催される日だった。しかし、運営会社のモビリティランドは8月中旬にコロナ禍によって開催を断念。ホンダ・ラストイヤーに準備を進めていたさまざまなイベントや企画も頓挫することとなった。
そこで、ホンダは中止となった日本GPに代わるファン参加型オンラインイベントを、トルコGP期間中に自社のサイト上の特設ページで開催。トルコGP決勝当日の午前中にホンダF1の首脳陣の2人がファンとの交流を図った。
母国だからこその“白”
ホンダはこのほかにもさまざまな企画を復活させ、このトルコGPで披露した。そのひとつが白いレーシングスーツだ。きっかけとなったのは佐藤琢磨とマックス・フェルスタッペンが、19年に本田技術研究所のテストコースで往年のF1マシンRA272を走らせた企画だった。
そのイベントで佐藤はホンダが用意した白いレーシングスーツを着たのだが、それを見たフェルスタッペンが「これ、カッコイイね」と言い、それを覚えていたレッドブルのスタッフが、今年に入ってから「そのデザインをモチーフにした白を基調としたレーシングスーツを、ホンダF1の最後の母国グランプリとなる鈴鹿でフェルスタッペンに着せたい」と進められたアイディアだった。
その後、レッドブル側はホンダと日本のファンへ感謝の意を表すために、レーシングスーツだけでなく、マシンも白を基調にした特別カラーリングに変更したいとホンダに提案した。そのアイディアをクリスチャン・ホーナー代表から聞かされた山本は、「すごいいいアイディアだから進めてほしい」と承諾した後、こんな逆提案をした。それは「ノーズの上に日の丸を描いて、その中にドライバーのゼッケンを入れてみてはどうか」というものだった。
しかし、すべてはコロナで中止となった。せっかく進めてきた素晴らしいアイディアをラストイヤーのどこかで披露することはできないか。山本はホーナーに「最終戦で白いマシンを走らせることはできないか」と打診。ホーナーも理解は示したが、「最終戦までチャンピオンシップ争いがもつれた場合、最後はわれわれのオリジナルカラーで戦いたい」と返答した。