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羽生善治は「847」 大山康晴は「652」…では藤井聡太19歳は? 谷川浩司が注目する《名棋士と勝ち越し数とタイトル数》の関係
posted2021/10/23 06:00
text by
谷川浩司+大川慎太郎Koji Tanigawa + Shintaro Ohkawa
photograph by
日本将棋連盟
谷川 5月に『藤井聡太論 将棋の未来』を出版させていただきました。今回オンラインのイベントのお相手、大川さんはとても取材力と筆力が高く、私が信頼をするライターの方ですので、楽しく時間を過ごすことができるかなと思っております。
大川 谷川先生から過分なお言葉をいただきましたが……『藤井聡太論 将棋の未来』に関して色々、谷川先生からたくさん良い話を聞けるように頑張ります。谷川先生、まずはこの本を書くきっかけと申しますか。もちろん依頼があったからだとは思うんですが(笑)。そのあたりからお話しいただければと。
勝ち方がある中で「最短の勝ち方」を選んだ
谷川 はい。依頼があったから――では身も蓋もなく、それで話が終わってしまいますので(笑)。スタートは2020年7月頃ですね。藤井さんが初めてタイトル戦の挑戦者になって。棋聖、そして8月には王位を獲った時期です。ただ、その1年前の秋頃から、もうすでに藤井さんはトップ棋士としての実力を身につけていて、いつタイトルをとっても不思議はないと思っていたんです。
当時、私が一番注目をしていたのが、あと1勝でタイトル獲得となり、その一局で勝ちが見えた時に、「気持ちの揺れ」があるのかどうかということでした。その中で渡辺明棋聖(当時)に挑戦して、2勝1敗となった第4局の中盤から終盤にかけての勝ちっぷりがすごかったんです。
最終盤、勝ち方がいくつかあったんですが――決して安全勝ちを目指すのではなく、最短の勝ち方――相手を「受けなし」にして、自玉が詰まない状況を読み切った。1分将棋になっているわけですが、その勝ち方が見事だった。技術面だけではなく、精神的でもすごいという……その辺りがきっかけですね。
大川 終盤の“勝ち読み”のところを注目した、ということですが……谷川先生が初めて名人を獲られた時はいかがだったんでしょうか。
私も、羽生さんも初タイトル時に気持ちの揺れが
谷川 38年前になりますかね。加藤(一二三)名人に挑戦した際に3連勝してから4、5局と負けて臨んだ6局目のことです。最終盤で相手玉に即詰みがあるとわかった時にですね、冷静ではいられなくなったんです。時間が残っていたので、なんとかして気持ちを落ち着けようとして、お茶を飲んだり、眼鏡のレンズを拭いたり……色んなことをした中で、7五銀と打った手がマス目にきっちりと収まらずに、少しゆがんだことを覚えていますね。
大川 谷川先生でもそんなことあるんですね。