オリンピックへの道BACK NUMBER
「順位を決めるためではない」堀米雄斗を育てたスケートボード早川大輔コーチが語る“スケボーカルチャー”の本質とは?
posted2021/09/30 11:04
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Yoshiko Kojima
まるで台風の目の中にいるようだった。
「まったく知らなかったんですよ」
スケートボード日本代表コーチを務めた早川大輔は笑う。
東京五輪で、スケートボードは大きな反響を起こした。大会前から、オリンピックの新種目であること、メダル有力候補が何人もいることで注目を集めていたが、大会が進むにつれて何十倍にも大きくなった。しかし早川はその渦中にはいなかった。
「僕らは選手村に入っていましたが、部屋にテレビはあったけれどアンテナがつながっていないので観ることがありませんでした。選手村を出るまで、盛り上がりは感じませんでした」
「五輪くらいじゃスケボーのかっこよさは変わらない」
スケートボードが反響をもたらした要因は、金メダルを獲得した堀米雄斗、西矢椛、四十住さくら、銀メダルの開心那、銅メダルの中山楓奈などストリート、パーク両種目での活躍があったのは間違いない。
ただ、成績ばかりではなかった。むしろスケートボードの中継から伝わってくる空気、光景がインパクトをもたらした。その中身を、早川の言葉が端的に表している。
「スケートボードは順位を決めるためにやっているわけではないカルチャーで、誰かがすごい技をやれば称え合うのが自然な文化です」
どうしてもメダル争い、結果がクローズアップされがちな中、他者を称賛し、順位以上に大切にしていることがあるという姿勢が選手たちから感じられ、伝わったからこそ生まれた反響だった。ある意味、既成の価値観と相反する立ち位置と言える。だから早川は語る。
「みんなから『オリンピック種目になるとスケートボードがかわるから反対だ』という声も聞いていました」
一方でこう考えていた。
「オリンピックくらいじゃスケボーのカルチャー、かっこよさは変わらないと思っていたし、逆にオリンピックが変わるでしょう、と思っていました」