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「速いやつは最初から速い」16歳のライダー古里太陽のグランプリ参戦を世界中が待ち望む理由とは<特技はゴルフと体操とピアノ>
posted2021/09/25 11:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
おそらく、あと何年もしないうちに、世界中のレースファンが彼の名前を知ることになるのではないだろうか。
古里太陽。今年、僕がもっとも注目し、これからを期待することになった若手ライダーである。太陽は、鹿児島県鹿屋市出身の16歳。まだレース界にデビューしたばかりなので、書くべきプロフィールは短い。
2017年、小学6年生(11歳)のときに鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)のベーシック(基本コース)に入校。成績優秀者として中学1年でアドバンス(ステップアップコース)に進む。そして、中学2年生だった19年には、ロードレース地方選手権「鈴鹿サンデーロードレース」J−GP3クラスのチャンピオンを獲得し、20年のアジアタレントカップへの出場が決まった。
ホンダとグランプリを運営統括するドルナがアジアの若手ライダー育成のために行うこのレース、コロナ禍の中で行われた20年はカタール大会でわずか2レースが行われただけ。このとき2位&4位になった太陽は21年のメンバーにも選ばれ、開幕戦カタールGP、連戦となったドーハGPの2大会4レースで4連勝を達成し、一躍、注目を集めることになった。
初めて尽くしのデビューウイン
その後、アジアで開催予定のタレントカップが次々に中止になっていく中で、ドルナは急遽、グランプリライダーの育成シリーズとして行っているルーキーズカップに太陽を出場させることを決める。太陽は、そのデビュー戦となったイタリア大会で優勝した。
このとき、すでにルーキーズカップは3戦目を迎えていた。レギュラー組はウインターテストもこなし、かなり乗りこなしている状態。一方の太陽は、ヨーロッパを訪れるのも、ルーキーズカップで使用するKTMのマシンも、舞台になったムジェロを走るのもすべてが初めて尽くし。
初めてのコースで優勝、という話はそれほど珍しくない。だが、シーズン途中に初めて乗ったマシンで優勝するというのは、世界中から優秀な若手ライダーたちが集まってくるルーキーズカップでは初めて。グランプリでもそうある話ではなく、パドックの関係者たちも、その凄さに驚くことになった。
続く大会2レース目はライバルたちに徹底的にマークされたが、終盤まで優勝争いに加わった。最終ラップの攻防で接触を避けるためにコースアウトを喫して14位に終わったが、その元気あふれる走りは大きな注目を集めた。