モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
「速いやつは最初から速い」16歳のライダー古里太陽のグランプリ参戦を世界中が待ち望む理由とは<特技はゴルフと体操とピアノ>
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/09/25 11:01
デビューウインを果たしたルーキーズカップ・イタリア大会のレース後、笑顔を見せる古里太陽
その後、ドイツで2レース、オーストリアで4レース、スペイン・アラゴンで2レースに出場。完走したのはオーストリアの4レース(10位、8位、5位、4位)とアラゴンの1レース目(7位)だけだが、他のレースではトップを独走して転倒、ファステストラップを叩き出して転倒と、結果にはつながらなかったが存分に速さをアピールした。
すでに今年の予定はすべて終了して日本に帰国したが、来季はホンダの育成ライダーとして、ルーキーズカップなどヨーロッパを舞台に行われる大会、もしくはグランプリに出場することになりそうだ。
彼のレースキャリアは、これでほとんどだが、太陽の活躍を見ていると、レース界の格言である「速いやつは最初から速い」という言葉を実感させてくれる。それは14歳でデビューした昨年のアジアタレントカップの最初のレースで2位になったときに感じた。初めての海外レースで2位になったにもかかわらずちっとも嬉しそうな顔をしない。2位になれたことよりも優勝できなかった悔しさの方が大きかったからだ。
アジアタレントカップは、ホンダNSF250Rという同じバイクをつかってのワンメークレースで、スリップストリームが実に有効的な武器となる。しかし、それをよしとはしない太陽は、4連勝を達成した今年のレースで積極的に前に出て自力優勝。しかも、カタールの4連勝のほとんどが独走での勝利だった。
太陽が目標にしてきたライダーは、ホルヘ・ロレンソ。ロレンソのようにスムーズに乗るのが自分のスタイルにあっているし、かっこいいと語る。逃げても競り合っても強い、そんなライダーでもある。
初めて会ったときから「太陽」というのは、いい名前だと思った。名付けてくれたのは町内会の長老さんで、家族全員それがいいということでつけられたという。もちろん、本人も自分の名前が大好きである。
太陽が生まれ育った鹿屋市は、地図上では錦江湾の東側の大隅半島にあり、桜島が近い。火口から灰が飛んでくることも珍しくないとのこと。種子島が近く、種子島宇宙センターから打ち上げられるロケットも学校の教室から見ることができたそうだ。
太陽は4歳でバイクとゴルフを始め、6歳で体操とテニスとピアノを始めた。ゴルフと体操とピアノはいまも続けている。生まれ育った鹿屋市には体操競技で有名な鹿屋体育大学があり、体操はいつもそこで練習をしてきた。ピアノの腕前もなかなかである。
レジェンド・加藤大治郎との共通点
これまで多くの才能ある日本人選手たちを見てきた。どの選手も世界の舞台で戦うことを望むが、世界の舞台に参加が望まれた選手は日本人選手では加藤大治郎だけである。ワイルドカードで日本GPに出場して2度の優勝。「どうして加藤はGPに参加しない? ホンダはなぜ参戦させない?」と言われ続けてきた。