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シュワンツ、ロッシ、マルケス…王者の必須テク“ハードブレーキ”を武器に、クアルタラロが狙うフランス人初の最高峰クラス王座
posted2021/09/02 17:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
先週行われた第12戦イギリスGPで総合首位のファビオ・クアルタラロが5勝目を挙げた。開幕前に「この大会で2位に50点差をつけるのが目標」と語っていたが、今大会9位で総合2位に浮上したディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミルに65点差。残り7戦(予定)を残し、初タイトル獲得にまた一歩前進した。
クアルタラロの速さの要因はハードなブレーキングにある。そのブレーキングに不可欠な要素がフロントの安定性であり、クアルタラロは「フロントがしっかりグリップしてくれたらいい走りができる」と常々語っている。今大会の勝因も「ブレーキングが予想以上に良かった」と語った。
クアルタラロのブレーキングスタイルは独特である。ブレーキングの際に右コーナーなら右足を、左コーナーなら左足を出すのが最近の流行だが、攻めているときのクアルタラロは離した足をマシンにピタリとくっつけてニーグリップするのが特徴で、それだけハードブレーキなんだろうということが容易に想像できる。
ブレーキングを制する者がレースを制す
今季を最後に引退を表明したバレンティーノ・ロッシ、怪我からなかなか完全復活できないマルク・マルケスもブレーキングが最大の武器だった。昨年まで圧倒的な強さを発揮したマルケスは、後輪が浮いた状態でマシンをバンクさせていくという神業的なテクニックの持ち主だが、これは後輪が着地したときにクラッチをすべらせる機能や調整があってのこと。だからといってだれでもできる技ではないし、右腕の怪我のせいでいまなお本来のパフォーマンスを発揮できないでいる。ブレーキレバーは右手に握るだけに、完全復活にはもう少し時間がかかるのかも知れない。
そのマルケスに較べ、クアルタラロのライディングスタイルはオーソドックスに見えるが、それはすなわちバランスが良いヤマハのマシンのパフォーマンスを最大限活かす走りともいえる。マシンをバンクさせるポイントまでにしっかり減速させ、深いバンク角でマシンの向きを変えて素早く加速する。クアルタラロの今年の走りは、速く走るために必要な基本的な要素を高次元で実現している。