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「負けました、では帰れない」“元スターダム”彩羽匠が語った長与千種イズムとリングの美学…“闘う宝塚”は5★STAR GPを制するか? 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2021/09/24 11:04

「負けました、では帰れない」“元スターダム”彩羽匠が語った長与千種イズムとリングの美学…“闘う宝塚”は5★STAR GPを制するか?<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

今年の5★STAR GPに唯一他団体から参戦している彩羽匠。9月11日の上谷沙弥戦での渾身のキック

 逆にマーベラスの選手はシンプル。技の種類も多くは教えないそうだ。新人はワンピースタイプの、いわゆる“水着”で試合をするのも長与のこだわりだ。色違いなだけで同じ型のコスチューム、ドロップキックやボディスラムなど技も限られる。その状況でガムシャラに闘い、自然に滲み出てくるものこそが本物の個性なのだということだろう。「技がなくても表情で見せればいい。マーベラスはそういう考え方ですね」と彩羽。

「華やかさは後から身につければいい。新人の時は、新人にしかできないことをやればいいんですよ。それがのちのち活きてくる。キャリアを積むことはできますけど、新人時代は一度だけ。戻ることはできないので」

 トップ選手の彩羽も、オールラウンダーだが技の多彩さで勝負するタイプではない。派手な大技は長与譲りのフィニッシュであるランニングスリー、それにスワントーンボムくらいだろうか。基本的には蹴り主体、勝負どころではスリーパーホールドも使う。この蹴りのタイミングと精度が素晴らしい。

“闘う宝塚”と言われることも

 限られた技で“魅せる”ことができるのは、試合中の“間”を大事にしているからだ。女子プロレスは総じてスピーディーで手数が多い。矢継ぎ早に技を繰り出し、それを切り返しという展開の連続で観客を熱狂させる。

 対して彩羽は、攻防の中に“間”、つまり“静”の時間を作る。そこからたたみかけることで緩急が生まれ、観客が感じる迫力が増すわけだ。

「自分の試合は“闘う宝塚”って言われることもあるんですけど、やっぱり見せることは大事ですね。プロレスはお客さんあってのもので、ある意味でお客さんとも闘っているので。会場にこうやって(腕を組み、座席の背にもたれて)見ているお客さんがいると“よし、あの人を前のめりにさせるぞ”と思って試合をしますね。

 そのために大事なのは、対戦相手にのめり込みすぎないこと。相手にばかり集中して周りが見えていないと、自分たちだけの世界になってお客さんを置き去りにしてしまうことがあるんです。“間”を作ることで、お客さんは見る態勢を整えることができる。どんなに凄い技を出しても、お客さんに伝わらなければ意味がないので。そこはお客さん、会場の呼吸を読む感じですね」

「後輩のためにも優勝しないと」

 もちろん最重要視しているのは勝つことだ。リーグ戦出場は復帰戦の前から決まっていたが、いざ始まってみると「優勝しなければ」という思いはより強くなった。「自分は“すいません、負けました”では帰れないんです」とまで言う。

【次ページ】 リーグ戦優勝の先に見据えるもの

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