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「最年少、最年少、最年少…」19歳藤井聡太三冠の記録ラッシュ それでも難易度が高い中原誠の“伝説的記録”「当時はスゴいと思わなかった」
text by
相崎修司Shuji Sagasaki
photograph byKYODO
posted2021/09/19 17:03
9月13日に叡王を獲得し、史上最年少三冠になった藤井聡太氏。写真は7月、棋聖戦で初防衛。18歳11カ月で最年少九段になった
棋戦優勝、タイトル挑戦、タイトル獲得も“最年少”
◎棋戦優勝、15歳6カ月
藤井が初めて棋戦優勝を果たしたのは2018年2月の朝日杯オープンである。それ以前は1955年に加藤一二三九段が六・五・四段戦で優勝した15歳10カ月だった。藤井の優勝に関して特筆すべき点は年齢だけではない。全棋士参加棋戦での優勝だったことだ。加藤の六・五・四段戦はその名前の通り、七段以上の棋士は参加していない。それ以外の年少優勝記録もほとんどがいわゆる若手棋戦によるものだ。ちなみに羽生善治九段の初の全棋士参加棋戦優勝は1987年12月の天王戦で、当時17歳2カ月である。
藤井はこの朝日杯優勝で六段へ昇段し、その数カ月後に七段となった。これは若手棋戦の参加資格を失ったことを意味している。現行の若手棋戦は新人王戦、加古川青流戦、YAMADAチャレンジ杯の3つだが、藤井が参加したのは新人王戦が2期(優勝1)で、加古川青流戦、YAMADAチャレンジ杯にはいずれも1期のみだ。現役最年少棋士が若手棋戦に参加できなかったというのも珍事の一つだろう。なお、羽生善治九段が優勝できなかった、ただ一つの若手棋戦が早指し新鋭戦で、3期参加したが、2回の準優勝が最高だった。その決勝の相手はいずれも、宿命のライバルともいうべき森内俊之九段である。
◎タイトル挑戦、17歳10カ月20日
◎タイトル獲得、17歳11カ月
2020年7月16日は将棋界の歴史に残る日と言ってよいだろう。藤井が渡辺明棋聖から棋聖を奪取し、史上最年少でのタイトル獲得を実現した。
藤井以前の最年少タイトル獲得者は屋敷伸之九段で、1990年8月に棋聖を中原誠十六世名人から18歳6カ月で奪取した。屋敷はその半年前にも中原棋聖に挑戦しており(当時の棋聖戦は1年2期制だった)、この時は敗れていたが、17歳10カ月24日でのタイトル挑戦も史上最年少だった。
挑戦の年少記録に関して、藤井はタッチの差で更新したことになる。タイトル挑戦の日付は、挑戦を決めた日ではなく、そのタイトル戦の開幕第1局を指した日付を数えるが、2020年はコロナ禍の影響で、対局がいつ行われるかというのは全く不透明だった。事実、この年の名人戦は通常の開幕時期と比較して、だいぶ延期されている。
藤井の棋聖戦は3月31日に決勝トーナメントの準々決勝を勝ってから、全く先行きが不透明だった。それでも関係者各位の努力もあって、6月に再開が決まると、6月2日に佐藤天彦九段との準決勝、4日に永瀬拓矢王座との挑戦者決定戦、そして8日が渡辺棋聖との第一局というスーパーハードスケジュールとなった。その全てを勝って最年少挑戦、獲得に結び付けた藤井の偉業はまさに特筆すべきである。
竜王、名人…残る5つのタイトルの「最年少記録」は?
現在の藤井は王位・叡王・棋聖の三冠を保持しているわけだが、では残る5つのタイトルに関する最年少記録について見ていこう。