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「最年少、最年少、最年少…」19歳藤井聡太三冠の記録ラッシュ それでも難易度が高い中原誠の“伝説的記録”「当時はスゴいと思わなかった」
text by
相崎修司Shuji Sagasaki
photograph byKYODO
posted2021/09/19 17:03
9月13日に叡王を獲得し、史上最年少三冠になった藤井聡太氏。写真は7月、棋聖戦で初防衛。18歳11カ月で最年少九段になった
では四冠以降はどうなのだろうかというと、
・史上最年少四冠、羽生善治、22歳9カ月、1993年7月19日
・史上最年少五冠、羽生善治、22歳10カ月、1993年8月18日
・史上最年少六冠、羽生善治、24歳2カ月、1994年12月9日
・史上最年少七冠、羽生善治、25歳4カ月、1996年2月14日
(※同時八冠は過去に達成者なし)
藤井は史上10人目の三冠となった訳だが、四冠以降となると当然もっと達成者が減る。四冠を達成したのは大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、米長邦雄永世棋聖、谷川浩司九段、羽生善治九段(達成順)の5名で、五冠は大山、中原、羽生の3名、六冠以降は羽生だけだ。
そもそも五冠以降はチャレンジ(四冠を持った状況で五冠目に挑戦する)すら難しい。米長と谷川をもってしても五冠チャレンジはできなかった。そして大山の全盛期はタイトルが5つしかなかった時代であり、中原は六冠チャレンジこそ出来たが、奪取には至らなかった。
「対局過多で体調がおかしくなっていました」とはのちに当時を振り返った中原の述懐だが、対局過多による過密スケジュールこそが、あるいは四冠以降に立ちはだかる最大の敵なのかもしれない。
藤井がそれぞれの年少記録を更新するリミットは、まず四冠が2025年の棋王戦、五冠が25年の名人戦、六冠が26年の王位戦、七冠が27年の竜王戦と試算できるが、ここまで先の話だとさすがに仮定が過ぎる。
多少なりとも現実的と言えるのは今年度にあり得る、最大五冠についての可能性だろうか。竜王戦で豊島を破り、また王将戦は挑戦権を獲得し、渡辺からタイトルを奪取すれば実現となる。どちらも持ち時間8時間の七番勝負で、これは既に経験した王位戦七番勝負と同じだ。ただ豊島も自身にとって唯一のタイトルとなった竜王防衛のためには死に物狂いで臨むだろうし、王将戦の渡辺は「2日制の鬼」とも言われる。そして盤上での戦いに加えて、過密スケジュールへの対策も必須になってきそうだ。
中原誠の“とんでもない記録”
ここまで、藤井に関する様々な史上最年少記録を見てきた。他にも珍記録の類としては最年少タイトル失冠(屋敷伸之、19歳6カ月)、最年少竜王戦1組陥落(羽生善治、20歳11ヵ月)、最年少順位戦A級陥落(加藤一二三、21歳2カ月)などといったものもあるが、少なくともタイトル失冠の年少記録は更新しないことが確定しているし、残る2つについても深く論ずるものではないだろう。
だが最後に、実現にはまだ数年を要するが、これを更新出来たら本当の意味でとんでもない、でも藤井ならあるいは……、と思わせる年少記録がある。