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《甲子園》投打に大谷翔平の影響? 「内角攻め」&「引っ張り打法」のトレンドは高校野球の“新常識”になるのか
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKYODO
posted2021/09/02 06:00
残念ながら2回戦を辞退した東北学院。エース伊東大夢の攻めの投球は見応えがあった
ここまで紹介した選手以外でも栗原英豊(松商学園高・2年)、塩路柊季(智弁和歌山高・2年)、吉村優聖歩(明徳義塾高・2年)ら来年が楽しみな好投手たちも厳しく内角を攻めた投球が多く、「困ったときのアウトロー(外角低め)」を座右の銘にしてきた高校野球の常識が様変わりしたように見えた。
22日に配信された毎日新聞のWEB版では、21日までの26試合でホームランが14本しか出ていないことに注目していた。「新型コロナウイルスによる実戦経験の少なさ」「投手力のレベルアップ」「プロ経験のある監督が増えた」など、識者への取材を通して要因を分析していたが、筆者はむしろ、ピッチャーたちの果敢な内角攻めがバッターの強打を封じた最大の要因だと思っている。
特定のチームに限定されない、この内角攻めのトレンドはどこから来たものなのだろうか。
「内角」と「高め」は一発長打に繋がるデンジャラスゾーンと呼ばれ、2年前までの高校野球ではそれほど多く見られなかった。しかし、新型コロナウイルスの影響で練習や対外試合が制限される中、高校生たちは映像などから情報を集める時間がいつも以上に多かったはずだ。そこで影響を与えたのはMLBで大旋風を巻き起こしている大谷翔平(エンゼルス)の存在ではないだろうか。
バッティングだけでなく、MLBの舞台で2桁勝利を挙げる大谷が、右打者の内角をスライダーでえぐり、また高めゾーンにスライダーを曲げ、空振りを奪うシーンをよく見かける。あくまで仮説だが、「内角攻め」が増える要因の1つになっているかもしれない。
バッターは“引っ張り打法”で抵抗?
一方、大谷が執拗な内角攻めを鋭く強いスイングで弾き返し、メジャートップの42ホームランを記録している(8月31日現在)ように、ピッチャーが変われば、バッターだって変わる。
今大会の36本塁打は101回大会(2019年)=48本、100回大会=51本、99回大会=68本にくらべれば確かに少ないが、98回大会=37本、97年大会=32本、96年大会=36本なのだから大差ない。前述の毎日新聞の記事のように序盤こそ少なかったが、大会中盤以降に12本のホームランが出ていることは、ピッチャーの厳しい内角攻めにバッターがしっかり対応した結果と見ていい。とくに目立ったのは引っ張った打球の力強さだ。
不戦勝した智弁和歌山高以外の参加校が出揃った22日(大会9日目)の第2試合では、神戸国際大付高の左打者・阪上がライトに、第4試合では盛岡大付高の右打者・小針遼梧(3年)がレフトに、新井流星(3年)がセンターにホームランを放った。翌23日(大会10日目)では近江高の左打者・新野翔大がライトに、大阪桐蔭高の右打者・松尾汐恩がセンターに。24日(大会11日目)の第1試合では京都国際高の右打者・中川勇斗(3年)、辻井心(2年)がレフトへ連続ホームランを放っている。ちなみにこの試合で京都国際高は左腕・森下にもホームランが飛び出したが、いずれも力強い内角攻めを敢行する二松学舎大付高の左腕・秋山が相手だった。
バッターにとって「おっつけて逆方向」は、ピッチャーの「困ったときのアウトロー」と並ぶ高校野球の常識だったが、その常識をまずピッチャーの内角攻めが封じ、その新常識にバッターが引っ張り打法で対抗した構図と言えるだろう。