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「甘えん坊」だった智弁和歌山エース中西聖輝を覚醒させた“ライバル”小園健太とイチローの「強者のメンタル」《甲子園秘話》
posted2021/09/01 17:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
「今日も行けそうか?」
智弁学園との決勝戦の朝。智弁和歌山の中谷仁監督から登板の意志を確認された。
エースの中西聖輝は、前日の近江との準決勝で124球を投げ完投していた。ここまで2試合17回2/3を投げ、球数は269球と「1週間500球」の制限まで余裕はあった。
「先発でも行けます!」
しかし中西はベンチスタートだった。
監督がかねてより背番号18の伊藤大稀を先発にすると決めていたからだったが、背番号1の見せ場は4回、早くも訪れた。
4-2と2点リードしているとはいえ、無死一、二塁と長打が出れば同点のピンチ。ここで、智弁和歌山が動く。
ピッチャー、中西。
ベンチの監督とは言葉を交わすことはなかったが、目が合った。
「頼むぞ!」
中西の心には、確かにそう響いていた。
「甘えん坊」だった中西を変えた、小園健太(市和歌山)の投球
送りバントで1死二、三塁と、単打でも同点のシチュエーションでも、マウンド上の中西は泰然自若としていた。
「マウンドであたふたすると、自分の気持ちがナインに伝わってしまう。心は熱かったですけど頭は冷静で。堂々と投げられました」
このピンチで中西は、智弁学園の植垣洸と中陳六斗を連続三振に打ち取った。ウイニングショットは、高校入学時から「スライダーだけでは通用しない」と、試行錯誤を繰り返しながら磨きをかけたフォークボールだった。
難局を切り抜けた中西は、胸を張った。
「チームのために投げ切るのがエース。感情のコントロールはできていました」
智弁和歌山のエースは5回以降もマウンドに君臨し、5安打8奪三振、無失点。話題を集めた「智弁対決」で、強打で鳴らす優勝候補に引導を渡した。
この中西のパフォーマンスに中谷が唸り、しみじみと歩みを語り出す。
「甘えん坊なところがあって、うまくいかないと拗ねたり、不貞腐れるような子だったんですが、この夏は1試合ごとに人間的にもピッチングも成長してくれました」