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「ここでユニフォームを脱ぎなさい」から始まった近江高校…“どん底”だったチームが大阪桐蔭を破り、20年ぶりのベスト4になれたワケ
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/08/29 17:02
8月28日の甲子園準決勝、智弁和歌山ー近江にて、打席に立つ近江高のキャプテン春山陽生
この言葉は実は、本心ではなかった。多賀には深謀があったのだという。
「うちは春山のチーム。人間的にできている春山がいたからこそ言えました」
どのチームにも、1年生の頃から自然とキャプテンシーを発揮できる人間はいるものだ。
2018年の第100回記念大会で選手宣誓を務めた主将、中尾雄斗の凛とした姿に感動し、近江への進学を決意した春山陽生は、まさにそんな資質を備えた男だった。
副主将の新野翔大が言う。
「入学した時から『こいつがキャプテンになるんだろうな』って。同級生とは思えないくらい、頼れる存在です」
そんな、選手から一目置かれる主将だからこそ、多賀は英断に踏み切ることができたし、掛け値なしの想いを打ち明けることができた。
「今、チームはどん底や。もう、這い上がるしかない。その覚悟があるんやったら、本気で這い上がってこい!」
チームの合言葉は「春山を日本一のキャプテンにしよう」
多賀の檄を意気に感じた。春山の弁。
「『甲子園に行く!』という気持ちを前面に出すことが、監督さんに自分たちのやる気を伝えられる方法だと思いました。だからまず、僕が練習から率先してそれを示そうって」
ここがまさに、近江にとって重要なターニングポイントとなった。
主将が選手の前で宣言する。
「俺が悪かった。夏は絶対にこんな思いはさせないから、ついてきてほしい」
春山は自分の武器について、「チームの最前線で、気持ちと声で引っ張っていけること」と、いつだって迷わず答える。
アクションは、すぐに起こした。
春の敗戦後に実践したなかで代表的なのが、定番の練習メニューである「三角ダッシュ」の本数を増やしたことだ。
ホームベース、レフト、ライトにコーンを立て三角形の外周を作り、1分以内に走り切る。1本あたりのインターバルは1分。近年は本数を減らしていたというが、春の大会後は従来の9本に戻した。想像以上に過酷だが、チームの全員に不満はなかった。
なぜなら、主将が誰よりも汗をかき、声を出し、気迫を見せていたからだ。
チームにはいつしか、当たり前のようにこんな合言葉が浸透していった。
「春山についていけば結果が出る。日本一のキャプテンにしよう」