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なぜ少女漫画で“青春×パラ”? 『ブレードガール』作者に聞く「何かを失った悲しみと何かを得た歓びがある」

posted2021/08/31 11:01

 
なぜ少女漫画で“青春×パラ”? 『ブレードガール』作者に聞く「何かを失った悲しみと何かを得た歓びがある」<Number Web> photograph by 重松成美/講談社

義足の女子高生ランナーの挑戦を描く『ブレードガール 片脚のランナー』は海外でも注目された“青春パラスポーツ漫画”である

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松尾奈々絵(マンガナイト)

松尾奈々絵(マンガナイト)Nanae Matsuo

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重松成美/講談社

 少女漫画×スポーツと聞かれて、思いつく作品は何だろうか?

 懐かしい名作だと『アタックNo.1』や『エースをねらえ!』、現在も連載中の作品で言えば、競技かるたの世界を描く『ちはやふる』を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、様々な媒体で取り上げられる“スポーツ漫画ランキング”などを見てみると、その半数以上が少年・青年漫画で占められてしまっていることも多い。

 そうしたなかで、文化庁が毎年優秀な作品を選定する『メディア芸術祭』の審査委員会推薦作品に選ばれ、フランスで最も古い歴史を持つ日刊紙『LE FIGARO』などで取り上げられるなど、海外でも注目された青春スポーツ少女漫画がある。義足の女子高生ランナーの挑戦を描く『ブレードガール 片脚のランナー』(重松成美、以下『ブレードガール』)だ。

 骨肉腫で片足を失った女子高生の春風鈴が競技用義足・ブレードや多くの人との出会いによって、二度と手に入らないと思い込んでいた「風を受けて走る」楽しさを知る。少女漫画×スポーツという決して王道ではない設定に、さらに「パラスポーツ」を組み込んだ。

「ぴったりハマったのが、義足のランナーだっただけ」

 連載開始が決定したのは東京五輪が決まった2013年。「少女漫画でスポーツを」という時事性から着想が始まったかと思いきや、作者の重松氏は「もともと描きたかった主人公像にぴったりハマったのが、義足のランナーだっただけです」と話す。

「母が病気の後遺症で重い障害を患ってたり、私も癌になって長期の治療を受けていたりと、もともと障害はとても身近な存在でした。そんな日々の中で、『何かを失うけれど、また別なものに出会って前進する主人公をいつか描きたいな』と思っていたんです。そんな時に出会ったのがパラスポーツでした」

 作品を読むと、その重要なテーマの1つが“風”であることが良く分かる。主人公の鈴が義足ではじめて走り出すシーンも、すぐに倒れてしまうにも関わらず、スカートを翻しながら一瞬で身体全体に風を受ける姿が大胆に描かれている。瞳のきらめきも鈴の希望を写し出している。

少年漫画ではなく、少女漫画で「パラスポーツ」を描く

「実際に義足の選手たちと一緒に走ってみると、もう全然敵わなくて(笑)。でも、身体全体で受ける風の気持ち良さとか、強いエネルギーをすごく感じたんです。風を感じて走っている歓びが印象的で、そのキラキラとしたものを絶対描こうって」

【次ページ】 らしさを生む「メガネ男子・風見」の存在

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