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なぜ少女漫画で“青春×パラ”? 『ブレードガール』作者に聞く「何かを失った悲しみと何かを得た歓びがある」
text by
松尾奈々絵(マンガナイト)Nanae Matsuo
photograph by重松成美/講談社
posted2021/08/31 11:01
義足の女子高生ランナーの挑戦を描く『ブレードガール 片脚のランナー』は海外でも注目された“青春パラスポーツ漫画”である
重松氏が言う通り、『ブレードガール』では少女漫画的な描写を駆使することで“スポーツの爽快感”を見事に表現しているのだ。決して王道でないジャンルでもその良さは存分に活きている。
「スポーツは少年誌・青年誌と相性が良いですよね。スポーツ漫画では『努力・友情・勝利』が王道のテーマですから。でもスポーツ、特にパラスポーツの魅力ってそれだけじゃないんです。何かを失った悲しみと何かを得た歓びが必ずある。勝負云々よりも、どんな人とどんな風に自分の障害を受け入れて一歩踏み出すのか。そういう側面を少女漫画の枠で繊細に描いてみたいと思ったんです」
らしさを生む「メガネ男子・風見」の存在
『ブレードガール』では作中で主人公の鈴と同じく、特に目を引くキャラクターが登場する。鈴のランナーとしての素質を見出す恩人で、ブレード技術者の風見。少女漫画らしい中性的な顔立ちのメガネ男子だ。海外から注目を集めた際にも記者から一番質問が多かったのは「風見は実在するのか(モデルはいるのか)?」だったという。
「本当に多かったです! でも残念ながら実在しないんですけどね(笑)。やっぱり主人公を支えてくれる人は魅力的なキャラクターとして描きたかったですし、執筆前の現場取材でお話しした技術者さんたちは皆さんとてもキラキラして見えたんです。それでいて、どこまでもブレードが大好きなヲタク。そういう要素も入れ込んでみたら、風見が生まれました」
少女漫画ならではの要素を“パラスポーツの魅力”を際立たせる装置としてうまく活用している。それもそのはずで、作品を描くにあたってはランナーだけでなく、彼らを支える技術者など国内外を問わず徹底して取材を重ねた。関わる人たちの性格や想い、パラスポーツに出会うまでの過程もキャラクターを生み出す上で大いに反映されている。
そして何より、スポーツと言えども勝負以外の魅力をいくつも発見した。それが風見に象徴される“ものづくり”という視点だ。
説明的にせず「ブレードの世界」を伝えるワザ
「ブレードも本当に色々な形があるんですよね。私達が見ると『大して違わなくない?』って思うような絶妙な角度とか、ちょっとした形をとことん突き詰めていてブレードが出来ているんです。それでいて“オーダーメイド”ではないのもすごく面白い。あくまですべての人が使用できるという条件の元、最高のブレードを突き詰めていくんです」
専門用語が多くなりがちなブレード職人の会話も、不思議と読み疲れを感じさせない。予備知識を読者に伝えながらなるべく説明的にならない形で「どんな種類の義足があるのか」「どれくらいのお金がかかるのか」など、義足ランナーにまつわることを読者が自然と読み取れるように工夫したのは、一ファンとしてパラスポーツの魅力に気づいた重松氏の読者への願いが込められているからだ。