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「ブラインドサッカーのボールは音が命」日本代表の成長を支える“国産ボール”誕生秘話《海外製をはるかに上回る質》
posted2021/08/29 06:01
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
視覚障害者が躍動するブラインドサッカー。この競技がパラリンピックの正式種目となったのは2004年アテネ大会。男子日本代表は5大会目にして、初の本大会に臨む。
日本ブラインドサッカー協会(JBFA)は'02年の設立以来、積極的に普及活動を行なってきたが、ひとつの課題があった。蹴ると「シャリッ」と音が鳴る、ボールである。
当時は海外製のボールを輸入していたが、供給が安定せず、肝心の質も悪かったのだ。
そこで'10年、JBFAは思い切って決断する。
「それなら国産でいいものを作ってやろう!」
白羽の矢が立ったのが'04年創立、パキスタンとのフェアトレードでサッカーボールの製造、販売を行なう「株式会社イミオ」である。
商品部ディレクターの武田順一さんが、この競技に使用されるボールについて解説する。
「ブラインドサッカー用ボールの音が鳴るのは、複数の鈴が表皮の内側についているからです。でも従来の海外製のボールは、鈴の位置が均等ではなかったり、縫い目もほつれていたりと、品質がまちまちでした」
「大きくキレのある音が鳴らないといけない」
鈴は金属なので、それがいくつも固まると表面が硬くなり、そこを何度も蹴ると足を痛めかねない。また表面が微妙に膨らむため、回転が不規則になる。イミオの開発スタッフは、こうしたブラインドサッカー独特の課題と格闘することになった。
「真球性を保つには、鈴を小さく、少なくすればいいのですが、ブラインドサッカーのボールは音が命。大きくキレのある音が鳴らないといけない。その両立に苦心しました。例えば表面の硬さを和らげようと鈴の材質を柔らかくすると、今度は蹴った衝撃で鈴がへこみ、音が鳴らなくなってしまう。音を大きくしようと金属の鈴に穴を開けると、手縫いなので水が染み、錆びて音が鳴らなくなってしまう」
1年にも及ぶ開発の末、イミオは海外製のボールをはるかに上回る「JBFA 公認ブラインドサッカーボール」(税込み5720円)を完成させた。
この10年、日本代表は確実に強くなり、海外勢と好勝負を演じるようになったが、それはJBFA公認ボールの誕生と無縁ではない。
「イレギュラーの多いかつてのボールは、感覚と技術に勝る南米勢に有利でしたが、ボールの質が上がったことで、彼らとの歴然とした差をいくらかは埋められたと思います」
ボールとともに成長した日本のブラインドサッカー。その成果を楽しみにしたい。
初出:Sports Graphic Number 1033・1034号(2021年8月12日発売)