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「怖いイメージを変えてくれた」女子ボクシング入江聖奈の恩師が語る“運動音痴でセンスなし”から金メダリストになれた「3つの理由」
posted2021/08/25 11:04
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
オリンピック史上最多となるメダルを獲得した東京オリンピックにおいて、女子ボクシングはフェザー級の入江聖奈(日体大)が金メダル、フライ級の並木月海(自衛隊体育学校)が銅メダルを獲得して世間を驚かせた。正式採用された過去2大会に出場できなかった日本勢がいきなり2つのメダルだから大躍進と言えるだろう。では、女子ボクシングはなぜこれだけ強くなれたのか。鳥取県米子市でシュガーナックルボクシングジムを営みながら、女子強化委員長を務め、入江の育ての親とも言える伊田武志会長に躍進の秘密を聞いた。
「入江が最初の試合でリングに上がるとき、金メダルを確信していました」
7月24日、両国国技館で教え子の入江が初戦を迎えるにあたり、伊田会長はそう確信したという。なぜか。それは入江が小学校2年生でジムの門を叩いた時から13年間、この日のために努力してきた道のりに絶対の自信を持っていたからだった。躍進の秘密1つ目は「13年計画」である。
「オリンピックで戦える選手に」“当たり前”を覆した指導
伊田会長は鳥取県でアマチュアの選手の指導を続け、全日本実業団選手権で数多くの優勝者を育てた。ただし、その上の国内ナンバーワンを決める全日本選手権、さらには世界選手権などの国際大会に出場するような選手は送り出せないでいた。伊田会長はその理由を自分の指導方法にあると考えた。
「当時の自分は高校生だった15年前、20年前に恩師から教わったボクシングをそのまま教えていた。自分の恩師も同じように恩師から教わったことを教えていたと考えると、自分は50年前のボクシングを教えていることになる。それはナンセンス。今の子どもたちに合った指導をしなくてはいけないと思いました」
伊田会長はボクシング界で「当たり前」と思われた常識、たとえば首を鍛える、アゴを引くといった動作に何の意味があるのかを一つ一つ見直し、自らの指導方法を大きく変えようと決意した。ちょうどその時にジムの門を叩いたのが入江であり、現在もトップレベルで活躍する男子の小川達也(駒澤大)、女子の木下鈴花(日体大)だった。
「この子たちを10年後、13年後に世界で戦える選手に育てようと思ったんです。そして2009年、女子ボクシングがオリンピックで正式に採用されることになって、オリンピックが明確な目標になりました」