「ボクシングは怖いというイメージを入江・並木が変えてくれた」

　伊田会長を中心とした女子チームは、専門のフィジカルトレーナーを導入し、専門家を招いた研修会を開いた。合宿のたびにミーティングを開いて選手たちから要望を聞き、女子選手が何を求めているかを探った。女子ボクシングは歴史が浅く、どうしても男子がやっていることを踏襲するケースが多い。これが必ずしも女子選手に合っていたわけではなかったのだ。

「たとえば練習中にスポーツドリンクを用意していたんですけど、みんなスポーツドリンクはいらないと言うんです。水のほうがいいと。これは微塵も疑っていなかったことだったので驚きました。あとはストレッチマットを用意する。男子ならそのへんの床とかリングとかでストレッチをして何も問題ないんですけど、女子選手は清潔なところできちっとやりたい。コインランドリーが近くにあることも必須です。きれい好きなんです。そういうことも私たちは聞かなければ分かりませんでした」

念願だった金メダルを獲得し喜ぶ入江

　こうしてさまざまな努力を重ね、女子ボクシングは今大会で初めて2選手をオリンピックに送り出し、かつ2人ともメダルを獲得するという快挙を成し遂げた。あまり注目を浴びることがない中で、コツコツと積み上げた結果がメダルだったのである。

　伊田会長はこれを機に女子ボクシングのイメージが変わり、女子ボクシングをやりたいという選手が増えてほしいと願っている。

「ボクシングは怖いというイメージがあるかもしれませんが、それを入江と並木が変えてくれたんじゃないかと思っています。2人ともどこにでもいるような普通のお姉さんで、なのにリングに上がれば強い。ボクシングって実はけがも少ないんです。男子で顔が切れたりすることはありますけど、女子だとそれもない。そのあたりも伝わればいいなと思っています」

　今回のオリンピックで注目を集めた女子ボクシング。3年後のパリ大会も大いに期待したいところだ。