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「先発完投型エース」は“時代遅れ”なのか? それでも高川学園・河野颯がマウンドを任され続けたワケ「“投げ込み”は1日150~200球」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/08/23 17:30
山口大会からたった一人で投げ抜いてきた高川学園の河野颯投手
「先発完投型」の絶対エースは少なくなりつつある
甲子園だけではない。この夏、高川学園の背番号1は、山口大会から7試合56回、自分の居場所を誰にも譲ることはなかった。
近年、1試合における分業制や球数制限の実施と、ピッチャーの故障予防のための管理が促進されている。そんな時代において、河野のような「先発完投型」の絶対エースは少なくなりつつある。
しかし、高川学園が目指したのはそんな時流とは違う形だ。全ての試合を河野に託したことを尋ねると、松本は主張した。
「技術と精神力が合わさってのエース。だから、最後まで信頼して投げてもらおうとは思っていますが、他のピッチャーを信頼していないわけではないんです」
河野が不動のエースとなったわけ。
それは、監督が挙げる技術と精神、そして、ちょっとした幸運が重なったからだった。
山口大会前から行ってきた「仕込み」
技術面では神戸国際大付戦でも披露したような、卓越した投球術が挙げられる。そこに精神面が備わっているからこそ、完成度の高さが表れるのだと、松本が解説する。
「まず大崩れしない。ピッチャーはバットをしっかり振れるバッターは怖いものですが、河野はそういう相手にもしっかりと腕を振って投げられるし、思い切って遅いボールを投げられるくらい、気持ちの強さがある」
この資質を最大限に発揮するべく、松本と河野は甲子園を見据え、夏の山口大会前から「仕込み」を行ってきた。
体力アップの走り込みは年間通してのメニューだが、その量を増やした。それ以上に河野に強固な土台を形成させたのが投げ込みだ。
まだ本格的な暑さが到来する前の5月から6月までのおよそ1カ月間、定期的に1日150~200球を課した。「夏は暑いんで、投げ込みをやった成果は出せたと思います」と、河野が自信を高めたのは間違いない。