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「先発完投型エース」は“時代遅れ”なのか? それでも高川学園・河野颯がマウンドを任され続けたワケ「“投げ込み”は1日150~200球」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/08/23 17:30
山口大会からたった一人で投げ抜いてきた高川学園の河野颯投手
適切な追い込みは必要
今の時代、「投げ込み」という言葉自体、好意的に思われないかもしれないが、1試合、あるいは長期にわたって投げ抜くスタミナは投げなければ養えない。プロ野球選手がシーズン開幕に向け、春季キャンプで連日のように100球前後を投げるのもそのためだし、それは高校野球とて例外ではない。
横浜高校時代に「名参謀」として黄金時代形成の一翼を担った元部長、小倉清一郎が話した、夏へ向けた投手育成を思い出す。
「毎日投げ込みしたら、そりゃあ壊れるからダメだよ。でも、夏はただでさえ体力が消耗するから、その準備はさせていたね。涌井(秀章)なんかもそうだったけど、夏前の土日の練習試合は連投させてスタミナを付けさせた。体力がないとフォームが悪くなって、それこそ怪我しちゃうからさ」
酷使ではなく適切な追い込みは必要、ということだ。河野もまた、夏本番をしのげるだけの「投げるスタミナ」が付いた。だからこそ投球フォームが安定し、監督が認めるパフォーマンスを安定して発揮できたのである。
絶対的エースに、悲壮感はなかった
迎えた山口大会。河野は決勝までの5試合全てで完投した。
5試合連続で登板した事実はあるが、「連日」は一度もなかった。山口大会では1試合ごとに1日または2日の間隔があったため、球数を意識しすぎず、コンディショニングの面でも負担にならなかったはずだ。
さらに甲子園でも、8月15日の小松大谷戦から雨天による順延が長引き、中6日での2回戦となった。河野にとっては、まさに「恵みの雨」だった。こうした日程によるちょっとした幸運も、“鉄腕”誕生をアシストしたことになる。
夏の河野に悲壮感はなかった。
ちぎっては投げ――ではない。145球を投げ高川学園に甲子園初勝利をもたらした小松大谷戦も、131球を投げ敗れた神戸国際大付戦でも、エースはしなやかに左腕を振った。
「ナイスピッチング」
敗戦後、監督の松本から労いの言葉をかけられた河野は、清々しく言葉を結んだ。
「夢の舞台で思い切って試合ができて、悔いはないです」
2021年夏。高川学園は新たな1ページを甲子園で刻んだ。
最大の功労者は、「先発完投型」の絶対エースだった。