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「先発完投型エース」は“時代遅れ”なのか? それでも高川学園・河野颯がマウンドを任され続けたワケ「“投げ込み”は1日150~200球」
posted2021/08/23 17:30
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
神戸国際大付との2回戦でも、先発マウンドには河野颯が君臨していた。
1回。先頭打者に死球を与える。送りバントで1死二塁とピンチを広げたところで、3番の阪上翔也に痛恨の一発を浴びた。
高川学園ベンチがざわつく。
背番号10の松川雄登がブルペンへ走り、肩を作り始める。
出鼻をくじかれる2失点。河野は結局、この回だけで32球も費やした。
相手は春夏連続で甲子園出場を果たした、関西有数の強豪校。傷口を広げないための決断は、いつも監督の頭を悩ませる。
「絶対に自分ひとりで投げるつもりでいました」
しかし、高川学園の指揮官、松本祐一郎に継投の選択肢はなかった。初回から控えピッチャーに準備させるのは、登板している選手にアクシデントがあったときの予防策。どのチームもやっていることであり、選手が自発的に行うことも珍しくない。
「大きな勝負の場面では、一生懸命、頑張ってきたエースに投げてもらう」
それは、松本が最初から決めていたことだった。
監督の意志がエースにリンクする。
「試合前から絶対に自分ひとりで投げるつもりでいました」
河野の気概がボールに宿る。
「すごい打線なんで、緩急をつけたピッチングをして。遅い球も思い切り投げられました」
最速142キロのストレートに110キロ前後のスライダー、最も遅ければ70キロ台とも言われるスローカーブを織り交ぜた、本来の投球で2回以降は無失点。しかし、一時3-2と逆転した後の7回に再逆転を許した。
このあたりから、今度は背番号11の松村修宏も準備していたが、それだけだった。
監督は最後までエースを信じ、エースは監督の矜持を体現した。8回4失点の完投。3-4で敗れたが、河野はマウンドを死守した。