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東京五輪閉会式“バラバラ感”の正体…「WAになっておどろう」&欽ちゃんの名司会でアットホームだった長野五輪との差
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byJMPA
posted2021/08/17 17:02
8月8日の東京五輪閉会式。最後の花火が上がるまで2時間18分ほどかかった
リオ五輪では「広島への祈り」のダンスがあった
式典での原爆の扱いをめぐっては、リオ五輪でも議論があった。同大会では、開会式の総合プロデューサーを務めた映画監督のフェルナンド・メイレレスが、開会式の行われているあいだに日本ではちょうど広島に原爆が投下された8月6日午前8時15分を迎えることから、それに合わせて会場全体で黙祷を捧げるという演出を提案した。しかし、このときもIOCは政治的な行動にあたることを理由に反対し、実現しなかったという。
それでもメイレレスは、その時間帯に、ブラジルの日系移民をテーマにダンサーが舞いを披露する場面を設けることで、「広島」への連帯を世界に発信したのだった。たとえIOCが及び腰でも、主催する側で具体的な場所などをモチーフに反戦や反核のメッセージをセレモニーに盛り込むことは可能だという好例だろう。リオでそれができたのに、当の日本での開催となった今回の大会で、そうした発信が見られなかったのは残念である。
「安倍マリオ」が残したよくない慣例?
閉会式では、次の開催都市に五輪旗を引き渡すフラッグ・ハンドオーバー・セレモニーも恒例となっている。かつては今回と次回の開催都市の首長が登場し、文字通り五輪旗を引き渡すだけだったのが、90年代あたりから次回開催地のPRの場として派手なものとなっていった。
今回の東京五輪でのフラッグ・ハンドオーバー・セレモニーでは、東京都の小池百合子知事から五輪旗が2024年の開催地であるパリのアンヌ・イダルゴ市長へ直接引き渡される一方、パリのデモンストレーションは会場ではなく、あらかじめ制作されたビデオと現地からの中継映像により展開された。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」をさまざまな人がつなぎながら演奏したり、空軍のアクロバット飛行チームがパリ上空に三色旗を描いたりといった演出にはたしかに心躍らされるものがあった。
ただ、他方で、なぜ国歌と国旗をここまで前面に出してくる必要があるのかと疑問も湧いた。そこへダメ押しのマクロン大統領の登場で、すっかり鼻白んでしまった。オリンピック憲章には五輪を開催する栄誉はIOCから開催都市に託されるものと明記されており、政府はあくまでバックアップする立場にすぎない。それにもかかわらず、国のトップが自らセールスマンを買って出る必要があるのだろうか。リオ五輪の「安倍マリオ」はオリンピックによくない慣例を残してしまったのかもしれない。
今回の閉会式ではまた、国旗と選手たちが入場する際に古関裕而作曲の「オリンピック・マーチ」が流れた。ラストにはスクリーンに「ARIGATO」の文字が映し出されたが、これは1964年の東京五輪の閉会式で電光掲示板に表示された「SAYONARA」と同じフォントを使ったものだった。開会式でパフォーマーたちが体で表現した各競技のピクトグラムといい、話題を呼んだこれらはいずれも前回の東京五輪のレガシーである。果たして今回の東京五輪は、これらに匹敵するものを遺せただろうか。それも含め、今大会については改めてさまざまな視点から省みる必要があるように思う。(文中、一部を除き敬称略)
(【前編を読む】《五輪閉会式》57年前のIOC会長スピーチはわずか2分だった!「天皇陛下も見ておられる…」本当はNGだった“伝説の演出” へ)
【参考文献】
NHKスペシャル取材班『幻のオリンピック 戦争とアスリートの知られざる闘い』(小学館、2020年)
舛本直文『オリンピックは平和の祭典』(大修館書店、2019年)
萩本欽一『なんでそーなるの! 萩本欽一自伝』(集英社文庫、2010年)
佐々木正明「8月6日『原爆の日』に東京五輪で黙とう論議 リオ大会で実行された広島に捧げる『演出』」(『The Asahi Shimbun GLOBE+』2021年8月6日配信)
オリンピック東京大会組織委員会編・発行『第18回オリンピック競技大会公式報告書 上巻』(1966年)