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《視聴率56.4%の開会式》海老蔵と木遣り歌は“政治案件”だった…では“不評”の23年前長野五輪の開会式を覚えていますか?
posted2021/07/28 11:06
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph by
JIJI PRESS
東京2020オリンピックは7月23日夜に開会式が行われ、本格的に幕を開けた。NHK総合の生中継の平均世帯視聴率は56.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、1964年の東京五輪・開会式の61.2%に迫る数字を記録した。それだけ関心が大きかったということだろうが、直前まで式を担当するクリエイターの解任があいついだこともあり、果たして無事に行われるのか気になって中継を観たという人も案外多かったのではないか。
瞬間最高視聴率は61.0%で、午後8時25分と26分および各国の選手の入場が始まった同8時47分に記録された。前者は、歌手のMISIAによる国歌斉唱のあと、新型コロナウイルス感染症による犠牲者や、過去の五輪で会期中に亡くなった人々(とくに1972年のミュンヘン五輪でパレスチナゲリラに殺害されたイスラエル選手団)などを追悼して、俳優でダンサーの森山未來がダンスパフォーマンスを行った場面だった。
森山はその前月には、劇作家・演出家の岡田利規による2部構成の舞台『未練の幽霊と怪物―「挫波(ザハ)」「敦賀」―』で、幻に終わった新国立競技場のデザイン案を手がけた建築家ザハ・ハディドを演じている。筆者もこの公演を観たが、デザイン案が却下されたあとに亡くなったザハの現世への未練を、身体を舞台上に叩きつけたりしながら全身全霊で表現する森山の演技は、圧巻の一言だった。開会式でのパフォーマンスも死者を悼むという点で先の舞台と重なり、ひときわ強い印象を受けた。
大役を終えた森山は、Instagramへの投稿で、岡田利規に最大のリスペクトを送るとともに、今回のパフォーマンスに直接かかわった音楽の原摩利彦、振付の大宮大奨のほか、これまで開会式に携わってきたクリエイターたちの名前を挙げて謝辞を捧げていた。そのなかには、広告代理店・電通のクリエイティブディレクターの菅野薫、演出家の小林賢太郎、また昨年まで企画プランを検討してきた振付師・演出家のMIKIKOの名前もあった。この3人はいずれも途中で担当を外れている。先の投稿での森山の《連綿と続く繋がりの最中、全ての想いを胸に私は立っていました》との一文は、彼が道半ばで降板した人たちの分までやり遂げようとの一心でパフォーマンスにのぞんだことをうかがわせる。
開会式から消えた『AKIRA』と渡辺直美
東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出チームをめぐっては、とにかく紆余曲折の連続だった。当初は、狂言師の野村萬斎や映画監督の山崎貴らに、2016年のリオデジャネイロ五輪・閉会式で引き継ぎ式の演出を手がけた菅野薫やMIKIKO、ミュージシャンの椎名林檎らを加えた8人によるチームでスタートした。しかし、菅野は電通社内でのパワハラ問題が報道されたのを受けて昨年1月に辞任。チーム自体も同年12月に解散した。大会組織委員会は解散理由を「コロナ禍にともなう式典の簡素化を短期間で進めるため権限を一本化する」と説明している。後任の責任者には電通出身のCMクリエイターの佐々木宏が就いた。