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《五輪閉会式》57年前のIOC会長スピーチはわずか2分だった!「天皇陛下も見ておられる…」本当はNGだった“伝説の演出” 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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posted2021/08/17 17:01

《五輪閉会式》57年前のIOC会長スピーチはわずか2分だった!「天皇陛下も見ておられる…」本当はNGだった“伝説の演出”<Number Web> photograph by Getty Images

8月8日の東京五輪閉会式。やっぱり長かったバッハIOC会長のスピーチ

 このあと、グラウンドはカオスと化した。10月も下旬の夜で小雨模様とあって、すでに肌寒かったのだろう、コート姿の人もちらほら見られるなか、一人だけランニングシャツでトラックを走る選手がいた。ほかにもカメラでスタンドの観衆を撮影したり、マーチを演奏する音楽隊を前に、傘をタクト代わりに振る選手がいたりと、みな伸び伸びと振る舞っている。そこからは競技を終えた解放感と大会に参加できた喜びがありありと伝わってくる。

 今回の閉会式で振付を担当した平原慎太郎は、式終了後の記者会見で、ダンスやパフォーマンスでは《とにかくカオスを作ろうとした。自分の中で社会はカオスだろうというのがあって、その中で秩序を見いだすのも社会の取り組み。まずカオスを作り、それを秩序化させていくプロセスを1つの音楽でみんなで楽しむ》ことを狙って企画したと語っていた(『スポーツ報知』2021年8月9日配信)。もっとも、カオスという意味では、さすがに前回の東京五輪には及ばなかったように思う。もちろん、そこにはコロナ下という事情も大きく関係しているのだろうが。

「天皇陛下も見ておられる……」強く反対された演出だった

 1964年の東京五輪の閉会式では当初、開会式と同じく選手たちは整然と入場する予定だった。それがなぜ、あのような形になったのか、そもそも誰が企図したものなのか、詳細は長らく不明だった。だが、昨年、NHKスペシャル取材班が著した『幻のオリンピック 戦争とアスリートの知られざる闘い』のなかで、真相が関係者への取材によりあきらかとなった。

 同書によれば、あの入場行進の仕掛け人は、大会組織委員会の事務局参与で、式典課の開閉会式の責任者だった松澤一鶴だという。松澤は1936年のベルリン五輪で日本競泳チームの監督を務めるなど水泳界の発展に尽くす一方、戦前より国内外の多くのスポーツ大会で開閉会式の演出を手がけ、「式典の神様」と呼ばれる存在でもあった。

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