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《ラグビー》“親分”の負傷、集団感染、HCの場外乱闘? トラブル続きのライオンズ南ア遠征、最後は“デジャブ”で決着
text by
竹鼻智Satoshi Takehana
photograph byGetty Images
posted2021/08/15 17:00
南アフリカとの三番勝負に負け越したブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ
話を戻そう。
第2戦は南アフリカに軍配が上がり、1勝1敗で向けた3戦目。ライオンズにもう1人頼もしい男が戻ってきた。
シャークス戦(7月7日)で負ったアキレス腱の怪我の影響で欠場が続いていたSOフィン・ラッセル(スコットランド)が最終戦でベンチ入り。しかも、試合開始後10分でビガーが負傷退場したことで、予定より早いタイミングでピッチに復帰した。この投入がライオンズに活力を与える。
スプリングボクスの速いプレッシャーに対して、浅い位置でボールを待つ司令塔は巧みな攻撃センスを発揮。パスを出す際に目線を向ける方向、ボールを持つ腕の動きなど、あらゆる動作で相手の目線を撹乱し、わずかに生まれたディフェンスのギャップにタイミングよく味方選手を走り込ませる。ピンポイントの正確性で繰り出されるキックパスを含め、短長織り交ぜてボールを動かし続けた。
ビガーとは明らかに違うゲームのテンポに引きずり込まれた南アフリカのディフェンスに綻びが生まれていたのは明らかだった。
しかし、「Bomb Squad (爆撃隊)」と呼ばれる南アフリカのベンチメンバーが反撃。後半に投入されるヘビー級FWの力技によって、最終的には16-19で退けられ、W杯王者としての意地を見せられる格好となった。
悔しい結果に終わったライオンズだったが、最終戦のラッセルが放った輝きはまさに4カ国連合チーム最大のファンタジスタだった。またLOマロ・イトジェ、LOコートニー・ロウズ、FLトム・カリーといったイングランド勢は、武闘派として知られるスプリングボクスのFW陣にも、互角以上の戦いを見せた。強固なディフェンスとキックを主体とした戦いは「やや退屈」という声も聞こえてきたが、彼らは4年後のライオンズ、さらには2年後のW杯フランス大会への可能性も十分に示したことだろう。
37歳ステインの“デジャブ”
最後に1つ、このレジェンドの紹介を。
最終戦、決勝ペナルティーゴールを決めたのは、5年ぶりに南アフリカ代表に招集されたSOモルネ・ステインだった。
実はステイン、12年前の2009年南アフリカ遠征でも決勝ゴールを決めているのだ。試合後、会見でこの結末を問われたガットランド監督は「デジャブかと思いました」と悔しい表情を覗かせた。当時、ライオンズのアシスタントコーチとして同行していたガットランド監督の脳裏にも、あの光景はしっかりと焼き付いていたのだろう。
37歳となった今もブルズでプレーを続けるステインは、184cm、91kgというプロラグビー選手としては中量級の体格。しかも、若い頃から過剰なウェイトトレーニングを嫌い、筋肉のストレッチと関節の可動性に重きを置いたトレーニングによって自らを鍛え上げてきた。正確無比なキックが代名詞となっているが、18年に渡るプロラグビー選手としてのキャリアで、大きな怪我を経験していないという稀な名選手としても知られている。
ライオンズが歴史と伝統とプライドを賭けて戦いにくるのであれば、スプリングボクスも名プレーヤーをぶつけていく。この試合で代表67キャップ目を獲得したベテランは、また新たな歴史をライオンズシリーズに刻み、ツアーを締め括った。
ライオンズが再び海を渡るのは4年後の2025年。メインターゲットはオーストラリア代表だ。再び集結するライオンズがワラビーズ相手にどんな戦いを見せるか、今からもうすでに楽しみで仕方ない。