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《夏の甲子園》「あの状態では土も…」井端弘和が味わった“戦後2例だけの降雨コールド” …サスペンデッド制導入はできないのか
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2021/08/12 20:00
2019年、全国高校野球選手権の開幕試合で始球式を務めた井端弘和。投手経験は一切なかったが、ストライク投球で観衆を沸かせた。
「あの状態では土も持ち帰れません」
「プレーボールから空模様は怪しかったんですよね。あっという間にグラウンドは湖みたいになっちゃって、負けを覚悟して泣き出す仲間もいたし、それを励ます仲間もいて……。自分は気持ちだけは切らさないようにって思っていましたね」
3回裏に続く2度目の中断は、24分に及んだがその後の天候回復も見込めなかった。仮に試合が続行されていたとしたら、8回裏の攻撃は7番打者からだった。1番だった井端氏には「雨に流れた1打席」があったということだ。「どんな形で回ってくるのか、想像していたんですよね」と話す井端氏だが、それ以上に心に残っていることがある。
「僕は幸いなことに大学、プロと野球を続けることができましたが、中には高校野球が最後という仲間もいました。負けることは残念ですが、仕方ない。ただ、ああいう形だとよくある最後のヘッドスライディングや、控えメンバーの代打や代走、相手チームの校歌を泣きながら聴くなんてことはすべてなかったんですよ。
審判の方がホーム付近に出てきて、ゲームセットと言って終わりですから。あの状態では土も持ち帰れません。記憶では、後日関係者を通じて送っていただいたんですが、やはり仲間とベンチ前でかき集めるのがいいといいますか……」
甲子園にコールドゲームは必要か
勝者の儀式だけでなく、敗者のさまざまな権利も雨は流したということになる。地方大会の得点差によるコールドゲームには、選手の体調、健康を守るという目的もあるだろうが、甲子園には必要かという声は根強い。
とりわけ、ゲリラ豪雨など天候の急変は大いに予測されるところ。この試合は、雨脚が強まるのがあと10分早ければ、堀越高の7回の攻撃が終了しておらず、ノーゲームとなっていた。翌日に1回から始めるのだから、それはそれで非常に非効率的だし、もしも堀越高が勝てばリードしていた鹿児島商工の悲しみは1敗以上のものとなっていたはずだ(実際、そうした例はある)。
かといって降雨コールドはあまりにも情が無い。合理的かつ常識的なのは打ち切った上で続きをやるサスペンデッド制の導入だと思うのだが。