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消えた「バルサのメッシ」という当たり前…放漫な経営が招いた悲劇で「メッシ」と「メッシのいないバルサ」はどこへ向かう?
posted2021/08/09 11:01
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
スマホの空き容量が限界なのに、ずっとほったらかしにしておいて、いよいよ使えなくなると分かったら、泣く泣く一番大事にしていた大容量の動画を削除する。
顛末をたとえるなら、そんなところだろうか。
現地時間8月5日、バルセロナがクラブのアイコンであるリオネル・メッシの退団を電撃的に発表した。
当初、両者は2026年までの5年契約で基本合意し、近日中にも晴れて契約延長が公式発表されると伝えられていた。バルサ寄りの現地紙もそう報じていただけに、まさに青天の霹靂である。
人員整理は遅々として進まなかった
クラブの公式HP上での経緯説明はこうだ。
「FCバルセロナとリオネル・メッシが合意に至り、新契約にサインをかわす明確な意思があったにもかかわらず、ラ・リーガの定める経済的・構造的な障害により、それは実現できなかった」
経済的・構造的な障害とは、ラ・リーガ独自のサラリーキャップ制度のことだ。つまり、クラブの総収入に対する選手の年俸総額の上限を、バルサは大きく超過(2億ユーロ=約260億円)しており、このままの状態では、メッシはもちろん、今夏に獲得したメンフィス・デバイ、セルヒオ・アグエロら4人の新戦力の選手登録も叶わなかったのだ。
3月の会長選に勝利したジョアン・ラポルタは、メッシを残留させるため、この問題をクリアすべく動いてはいた。
たとえばそれは、ジェラール・ピケやセルヒオ・ブスケッツといった高給取りのベテランとの給与カット交渉であり、ミラレム・ピアニッチ、サミュエル・ウムティティ、マルティン・ブライスワイト、フィリペ・コウチーニョといった余剰人員の売却交渉であった。
しかし、いずれも一筋縄ではいかない。
とりわけ、このコロナ禍においては多くのクラブが財政難に苦しんでおり──どこよりも深刻なのは当のバルサなのだが──、人員整理は遅々として進まなかった。アジア人蔑視の動画流出でバッシングを受けたアントワン・グリーズマンとウスマン・デンベレの放出も検討されたが、前者は古巣アトレティコ・マドリーとの交渉(サウール・ニゲスとのトレード)が条件面で折り合わず、また先のEURO2020で膝に重傷を負った後者の獲得に手を挙げるクラブはなかった。
結局、スマホの空き容量は増やせなかった。