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ドイツの育成現場で活躍する日本人サッカーコーチが提言 「夏休みはしっかりと休む」ことが子どもの上達を促す理由
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/08/12 17:01
日本では夏休みに多くの大会が開かれるが、ドイツの育成現場ではしっかりと休むことが推奨されている
もちろん、みんながみんな動けるように成長しているわけではない。なかには身体の動きが鈍ってしまう子もいる。
どこに違いがあるのかなと思って観察してみると、前者は夏休みの間、川遊び、海遊び、山遊び、友達とサッカー、友達とプール、友達と自転車ツアーなどなど、いろんな外遊びを満喫している一方、後者は家からあまり出ず、スマホ、パソコン、テレビ、ゲームという生活パターンが続いているという傾向がある。
休みを挟むことでプレーイメージが無意識下に整理
遊びながら様々に身体を動かしている子どもたちは、種々の運動回路が自然と作られ、コーディネーション能力が向上する。それによって身体をこれまで以上にイメージ通りに動かせる状態が生まれるのだろう。
僕らは、脳からの指令が電気信号として筋肉へ伝わることで身体を動かしている。だけど、例えば脳からの指令が「足を動かす」というだけでは、どのように、どのくらいのパワーバランスで足を動かすのか、きちんと伝わりにくい。それがスポーツとなると、様々な動きを、同時、連続、交互、不規則に行うことが求められる。
イメージ通りの動きをするためには、脳からの指令を伝える神経が活性化されることが必要だし、活性化された神経経路とそこから刺激を受ける筋肉組織が増えれば増えるほど、スムーズな動作が可能になる。だからこそ、特に小学生年代までは1つのスポーツだけに特化することを危惧する声が多い。
脳科学の見地から言うと、脳でイメージする通りの動きができるようになるためには、それを定着させるための時間が必要だという。毎日繰り返し練習するよりも、間に適切な休みを挟むことでプレーイメージが無意識下に整理されていく。これは一夜漬けの勉強が記憶に残りにくいというのと似た現象らしい。
練習するばかりが大事なことではない
遊ぶことが大事。休むことが大事。
しかし、コロナ禍では遊ぼうにも遊べる場所が少ない。ただでさえ大都市部では公園で大きな声を出そうものなら、すぐにたしなめられてしまう。本来は、そうしたクレームに屈することなく、「思いっきり身体を動かして遊べる環境は子どもたちの成長に欠かせないものなので、お気持ちはわかるけどどうかご理解いただきたい」と説得することこそが、担当機関の責務ではないだろうかと思ったりするのだが……。
いずれにせよ、子どもたちは、そして中学や高校の部活で活動する学生たちは、以前よりも思う存分に遊べる場所が限られている。遊べる場所、スポーツができる場所でも、安くはない費用がかかるという事情がある。
加えて夏休みの使い方という点では、大人の生活スタイルを配慮するのも大切なことだ。保護者の観点を忘れてはいけない。「家で家族とのんびり過ごしてください」と言っても、お父さんとお母さんが仕事を休めなければどうしようもない。