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NBAファイナル進出に貢献した日本人コーチは、どんなキャリアを?「変わり続けないと乗り遅れますから」
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byPhoenix Suns Social Media
posted2021/08/12 11:01
ミケル・ブリッジズと肩を組む玉川康平さん。2019-20シーズンからサンズに参画し、28年ぶりのNBAファイナル進出に貢献した
玉川は元バスケットボール選手で、東海大でプレーしていた。
しかし、3年のとき足首の故障によって選手を続けることが難しくなり、ストレングスコーチの仕事に興味を持ち始めた。アメリカで働くという目標を見つけると、東海大卒業後に渡米し、ジョージア大に入学。同大卒業後にはコロラド州にあるアメリカ・オリンピック・パラリンピック委員会でインターンの仕事を得て、オリンピアンやパラリンピアンたちの指導を行った。
その後、スタンフォード大でのスポーツパフォーマンス・アシスタントを経て、サンズのスタッフに加わった。こう書くと順調な経歴に見えるが、その過程では困難なことも多かった。特にジョージア大に入った直後は、英語の理解力が足りず、授業についていくのに苦労したため、途中で1年間、コミュニティカレッジに転校し、そこで英語力を磨くことに力を入れた時期もあった。
「あの1年間が自分の今の糧になっています」と玉川。「車で通学するときもずっとラジオを聞いて英語をリピートしたりしていました。あと、英語で教えることができないとコーチングもできない。将来、仕事を得たときにコミュニケーションをとるためにはできるだけアメリカのアクセントに近づけたかった。そこで、大学でチュータリング(家庭教師)の仕事をもらって、学内の学習センターで数学のチューターをやらせてもらった。1時間喋りっぱなしなので、それが自信になりました」
壁に当たったときには打開策を考え、人に相談したり、時には直談判で売り込んだり、積極的に動いた。そこまで行動できる理由を尋ねると、「これがやりたい、あれがやりたい、こういうことがしたい、という思いが人一番強いと思います」と自己分析した。
繋がった人脈「サンズで働きたい」
そうやって築いてきた人との繋がりが、後に助けになることも多い。
現在サンズでの上司とは、ジョージア大で学生インターンをしていた時から顔見知りだった。当時アトランタ・ホークスで働いていた上司がトレーニングキャンプのために大学に来ていたのだ。また、ヘッド・ストレングス&コンディショニングコーチはスタンフォード大のときの上司。といっても、単にコネで入ったのではなく、その場その場で仕事を認められてきたからこそ、人との巡り合わせを生かすことができた。2年前のオフにサンズのGMが代わり、メディカルスタッフも入れ替えになるというタイミングもよかった。
「実はその3年ぐらい前から、まわりに『サンズで働きたい』みたいなことを言っていたんですよ。当時は勝てていないチームだったので、そういうところにいって、何も失うものがないところから上にあがるだけ、という環境で働きたいってずっと思っていました」
まるで運命の糸にたぐり寄せられたようでもあった。