濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「人生狂いました、いい意味で」母の心配も賛否両論も超えて…世羅りさと“同志”たちが突き進む女子プロ“デスマッチロード”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/08/07 11:00
6月27日のアイスリボン後楽園ホール大会にて実現した、世羅りさ(右)と山下りなによる「蛍光灯デスマッチ」。彼女たちが危険な試合に挑む理由とは
山下「諦めないでいてくれてありがとう」
やってみて初めて分かったこともある。蛍光灯が割れると粉塵が出る。一度に何本も使うと、粉塵もかなりの量になる。リングが白い煙に包まれたような状態になり、周りが見えないから2人きりで向き合っているような没入感もあった。「2人だけの戦場」だ。
肉体的なきつさも予想以上だった。単に痛いだけではない。
「粉塵が目に入るとゴロゴロするし、口の中にもたまっていくんですよ。それに蛍光灯の破片が、汗と血で皮膚に張り付くんです。だから普通の技を食らっても破片が体に食い込む」
見ている側のテンションも上がりっぱなしだった。何しろ世羅と山下に遠慮や躊躇がまったくない。あるのは勝つための必死さと、やりたいことがやれている充実感だけ。それが観客にも伝わった。世羅は言う。
「やっぱり相手が山下だからですよね。今までライバルとしてやってきたからこそ“何をやっても大丈夫”という感覚があるので。“これをやったらケガするんじゃないか”とか、そういう遠慮が全然なかった」
勝ったのは山下。イカダ状に組んだ蛍光灯の上に、必殺技スプラッシュマウンテンで叩きつけた。大の字になって起き上がれない世羅に、ベルトを手にした山下は言った。
「アイスリボンでデスマッチを続けてくれて、諦めないでいてくれてありがとう」
締めのマイクは「デスマッチでハッピー」
観客からの拍手は、しばらく鳴り止まなかった。試合内容への賞賛だけではなかったはずだ。ここまでの試合ができる状況にこぎつけた、世羅の歴史への拍手でもあったように思える。
「まだまだ(デスマッチ)やっていいよ、という拍手だったと思います。アイスリボンのデスマッチロードが、ここから始まった。自分のじゃなく、アイスリボンのデスマッチロードです」(世羅)
大会の締めのマイクは「プロレスでハッピー」ならぬ「デスマッチでハッピー」。やり方が違うだけで、目指すところは同じなのだ。