濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「人生狂いました、いい意味で」母の心配も賛否両論も超えて…世羅りさと“同志”たちが突き進む女子プロ“デスマッチロード”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/08/07 11:00
6月27日のアイスリボン後楽園ホール大会にて実現した、世羅りさ(右)と山下りなによる「蛍光灯デスマッチ」。彼女たちが危険な試合に挑む理由とは
同志がいるからできた“デスマッチロード”
山下vs.すずのタイトル戦は、8月9日のビッグマッチ、横浜武道館大会で行なわれる。7.24後楽園大会の前哨戦ではすずが勝ち、山下は試合形式を発表した。題して「サマーボード+α持ち込み凶器デスマッチ」。後にサマーボードは「サマーヘルボード」に改称された。何かしら夏にちなんだ“アイテム”を貼り付けた凶器ボードを使うわけだ。このネーミングからも分かるように、デスマッチにはどこか突き抜けた明るさもある。
チャンピオンはそこにあえて“地獄”を付け足した。デスマッチができることに喜び「血まみれでベルトを巻きます」と意気上がる挑戦者への牽制かもしれない。デスマッチは甘くないぞ、と。
ともあれこの試合によって、アイスリボンのデスマッチはまた一歩、前進することになる。世羅もまだまだトップの座を諦めていない。この3人に加え藤田あかねも「アイスリボンのデスマッチのメンバー」と世羅。同志が4人いるからこそ“道”ができた。
「人生狂いました、いい意味で」
しかしまだ満足はしていない。世羅がやりたいのは、そして山下vsすずに期待しているのは女子デスマッチファイターを増やすこと。「もちろん中途半端ではできないし、人を選ぶジャンルではありますけど」と前置きして、世羅はこう続けた。
「私はデスマッチを見て“この人たちがこんなに頑張ってるなら自分も頑張ろう”と思えたんです。実際にやってみると“こんなに過酷な闘いを生き抜いたんだから私は大丈夫だ”となった。もう何も悩みなんてない、誰に何を言われても関係ない、そう感じて自信が持てたんです。
だから人生で悩んでいることがあるなら、一度デスマッチを見てほしいですね。そしてやりたいと思ったら飛び込んできてほしい。いつでも相手になります(笑)。葛西(純)さんも言ってましたけど、デスマッチは人の人生狂わせますね。私は狂いました、いい意味で」
デスマッチを見たら、やらずにはいられなくなる。そういう衝動が芽生えてしまう人間がいるのだという。
「衝動を抱く選手はこれからも出てくるでしょうし、出てきてほしい。だからこそデスマッチをやり続けないと。芽生えた衝動を爆発させる場所がなくちゃいけないので」
山下りなvs.世羅りさを見て、あるいは山下りなvs.鈴季すずを見てプロレスラーになったという選手も、いつか現れるだろう。その“いつか現れる誰か”の衝動を消させないためにも、彼女たちは笑いながら血を流してデスマッチロードを突き進む。
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