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《視聴率56.4%の開会式》海老蔵と木遣り歌は“政治案件”だった…では“不評”の23年前長野五輪の開会式を覚えていますか? 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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photograph byJIJI PRESS

posted2021/07/28 11:06

《視聴率56.4%の開会式》海老蔵と木遣り歌は“政治案件”だった…では“不評”の23年前長野五輪の開会式を覚えていますか?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

東京五輪開会式、市川海老蔵が披露した『暫(しばらく)』

 だが、今年3月、佐々木が、開会式に出演予定だったタレントの渡辺直美の容姿を侮辱するようなメッセージを演出チーム内のSNSに送っていたことが、『週刊文春』の報道で発覚。本人はこの事実を認めて辞任する。同誌ではさらに、昨年5月、開会式の演出の責任者だったMIKIKOが突然担当を外され、チームでつくった演出プランも事実上放置されて悩んだ末、11月に辞任届を提出していたことも報じられた。彼女はこれ以前より企画案を練る過程で、政治家たちからのあいつぐ注文にも苦慮していたという。

 MIKIKOを中心とするチームによる演出プランは、少なくとも昨年4月までには、ほぼ完成に近づいていたようだ。IOC(国際オリンピック委員会)側もプレゼンを受けて「よくここまでつくりあげた」と称えたというそのプランでは、「2020年東京五輪」を予言していたと話題を呼んだ大友克洋のマンガ『AKIRA』の主人公の乗るバイクが疾走するオープニングや、渡辺直美の合図により、女性ダンサーたちが、ひとりでに走る光る球と呼吸を合わせて舞うパフォーマンスなどが盛り込まれていたという(『週刊文春』2021年4月8日号)。

海老蔵と木遣り歌は“政治案件”だった

 実際の開会式では、上記のプランは見る影もなかった。どうやら、責任者が変更される過程で一切が白紙となったらしい。他方で、政治家たちの要望を反映した演出はいくつか見られた。やはり『週刊文春』の記事によれば、大工や火消したちが歌う江戸の伝統の木遣り歌は、火消し団体の一支部から都知事選で支援を受けた小池百合子知事が、歌舞伎役者の市川海老蔵の出演は、大会組織委員会の元会長の森喜朗元首相がそれぞれ強く望んだものだという。

 ただ、結果的に、そこにはある共通した配慮のうかがえる内容となった。木遣り歌のシーンでは、大工の棟梁に宝塚歌劇出身の俳優の真矢ミキが扮した。エキストラにも男性だけでなく女性たちが動員されているのが確認できた。また、市川海老蔵は市川宗家のお家芸である『暫(しばらく)』を、ジャズピアニストの上原ひろみとの競演という形で披露している。1年延期となったオリンピックで『暫』とは絶妙の演目だし、それに上原ひろみのアスリートのように力強いピアノ演奏をぶつけたのも面白い趣向だった。

 こうして見ると、少なくとも出演者に関してはジェンダーバランスへの配慮がうかがえる。そういえば、海老蔵登場の導入部に映像で流れたコント風の寸劇も、劇団ひとりとフィギュアスケートの荒川静香と、男女による組み合わせで演じられていた(しかも劇団ひとりより年下の荒川が上司の役だった)。これらキャスティングには、組織委会長だった森元首相や開会式の責任者だった佐々木宏が女性蔑視発言に端を発してあいついで辞任したことへの反省という意味合いも込められていたのではないか。

 もっとも、大会開幕前に発表された開閉会式のクリエイティブチームメンバーは男性が大半を占め、当初より批判もあった。かつて1994年のリレハンメル冬季五輪の開会式では、式に参加する人たちを男女半分ずつにするという先駆的な試みが行われた。これは、ノラ・イプセン(開催国ノルウェーを代表する劇作家ヘンリク・イプセンの玄孫)という女性スタッフの提案によるものだったという。これが四半世紀以上も前の試みであることを思えば、残念ながら日本の現状は圧倒的に遅れている。

23年前長野五輪の開会式はどんな中身だった?

 今回の開会式の演出には、木遣り歌や歌舞伎のような伝統文化だけでなく、入場行進でテレビゲームの音楽が流されるなど日本のポップカルチャーも随所に取り入れられていた。これ以前に本邦で開催されたオリンピックである1998年の長野冬季五輪の開会式とくらべると、日本文化を見せる演出もずいぶんスマートになったと思う。

【次ページ】 23年前長野五輪の開会式はどんな中身だった?

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