マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
大谷翔平の恩師 花巻東・佐々木監督の高1長男(183cm・117kg)のポテンシャル「清宮幸太郎の1年夏を思い出す」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/07/26 17:02
春季県大会決勝で豪快なホームランを放った佐々木麟太郎(1年)
ショートバウンドになりそうな低いスライダーを、確かライトフェンス直撃のライナーにしたのを見てビックリしたのが、1年春の都大会だった。
もしかしたら、清宮幸太郎のように、器用じゃないのがいいかもしれない。佐々木麟太郎は、ダメでも、ダメでも、ひたすら全力で振り抜いてくる。
その愚直なほどまっすぐなバッティングスタイルが、見る者には「次の打席」への期待をかきたて、相手バッテリーにとっては、次の打席こそやられるんじゃないか……「漠然とした恐怖」となって、実際に投げる指先を狂わせる。
村上宗隆のフルスイングを思い出す
清宮幸太郎選手と同期の九州学院・村上宗隆(現・ヤクルト)選手がそういうタイプだった。
カウントを追い込まれても、合わせたようなヒットでかわさすことなく、ひたすら渾身のフルスイングを貫いた。それだけブンブン振っても、そこに「精度」が伴っていたから、オリンピック代表にまでなった。
それでも平気な顔をして(失礼!)、毎年おびただしいほどの三振を喫しているのだから、バッティングという「仕事」はいいことばっかりじゃないのだ。そもそもが打率3割立派、4割天才……失敗のほうが多くて当たり前の難しい技術なのだ。
まだ高校1年の夏なのに、九百何十グラムのバットを割りばしみたいに軽々と振って、そのスイングの速さを見せつけるように今日の5打席、佐々木麟太郎は最後まで振って、振って、振り抜いてみせた。
ホームランもなく、シングルヒット1本だったが、遠くまで来た甲斐があった……と、気持ちよく帰れた。
「まーた佐々木が出てきたなぁ」
このままで終わるわけはない。本人が気づいて修正してきたら、すごいことになるぞ…と予感したそのままに、2日後の3回戦・花北青雲高戦で、佐々木麟太郎はホームラン1本の3安打を放ったと聞いた。
そっちのほうを見たかったな、とも思ったが、これから何度でも見られるな……と、すぐに気持ちを立て直せたのも、佐々木麟太郎の「凄さ」なのかもしれない。
取材にうかがった試合、花巻東高のスターティングメンバー9人のうち、最後の夏を迎えた3年生は3人だけ。半分以上が1、2年生の若いチームだ。
中には、この日、リードオフマンを務めた宮沢圭汰遊撃手(2年・170cm68kg・右投左打)のように、天才的な野球センスがキラキラ光る逸材が1年上にいたりして、大器・佐々木麟太郎がそのたぐいまれな素質を存分に伸ばせる環境に不足はないはずだ。
駅へ戻るバスの中で、後ろのほうからこんな話が聞こえてきた。
「佐々木朗希がいなくなっても、まーた佐々木が出てきたなぁ……」
「おとうさん、また、楽しみができたんじゃないの」
初老のご夫婦のようだった。
「そーよ、コロナなんかで死んでらんねぇ…今度の“佐々木”も、見届けてやんねえとなぁ」
聞いていた私だって、いったいあと何年、こんなことができるのか……考えてしまった。
「見届ける」。いい言葉だな……と思った。
甲子園予選で、これとにらんだ選手たちを見届ける旅。炎暑の中で、今年もまた始まっている。