球体とリズムBACK NUMBER
18歳ペドリのような才能育成、イタリア的に楽しむ、イングランドの“あるエキスパート”… EUROから日本が学べそうな“3要素”って?
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byREUTERS/AFLO
posted2021/07/19 17:02
イタリアの優勝で幕を閉じたEURO。ペドリらのプレーを含めて日本と欧州の違いが見える4週間でもあった
また各会場に詰めかけたファンも皆、心から楽しんでいるように見えた。そのポジティブなヴァイブスがチームと共鳴し、彼らを代表する選手たちに勢いを与える。そして良い結果が出れば、全員で喜び合うことができる。つまり、好循環が生まれるわけだ。
僕たち日本人は、外国の人々と比べて、楽しむことがあまり得意ではないように思える。何をするにもつい他人の目を気にしてしまい、どんな場面でも行儀良く振る舞いがちだ。慎ましさはこの国の美徳でもあるが、フットボールという球やゴールを奪い合う国際的なスポーツの場で、遠慮は何も生まないし、それを観る人々は素直に反応する方が自然だ。
もちろん、物事に真剣に向き合うことも大事だが、笑顔やユーモアも等しく重要だと思う。選手もファンも、その瞬間を感じるままに楽しみ、それを思い切り表現する。そんな風に殻を破って、最後にみんなで喜び合えたら最高だ。
(2)代表チームに心理学のエキスパートを
イングランドがメジャートーナメントで2大会連続の4強以上に勝ち進めた理由は、育成の成果やスタイルの変化、プレミアリーグの外国人トップ指導者の存在など、いくつもあるが、精神面のエキスパートの存在も注目されている。
2018年2月、イングランド・フットボール協会(FA)は、パフォーマンス心理学者のイアン・ミッチェル博士をスリーライオンズのスタッフとして招聘。彼は選手たちがリラックスできる環境を整えたり、選手や監督の良き相談役となったりしながら、チームに好影響を及ぼしてきたという。
就任4カ月後のW杯では、チームの環境やメディアへの対応が驚くほどに改善され、そのポジティブな空気が好結果に繋がったと、盛んに報じられた。そして今回も、例えばラウンド16でドイツに歴史的な勝利を収めたあと、舞い上がってもおかしくない選手たちに平静を保つ手助けをするなど、初めて決勝に進んだチームを陰で支えた。
前回のEURO2016で、初出場ながら4強入りしたウェールズでも同職を務めた博士は、「ミッチ」の愛称で親しまれる気さくな人物だという。GKジョーダン・ピックフォードは、「ミッチはいつでも僕らが話したい時にそこにいてくれる。腰の低いナイスガイで、良い呼吸法を教えてくれたり、リカバリーを促してくれたりするんだ」と大会中に明かしている。