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女優・大林素子に聞く“芸能界のオリンピックは?”「私はまだ市民大会にも出られていないくらいの実感ですね」
text by
河崎環Tamaki Kawasaki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2021/07/14 11:05
現役引退から25年が経った大林素子さん(54)
今をバレーに置き換えてみて、オリンピックが一番大きな夢だとしたら、私はまだ市民大会にも出られていないくらいの実感ですね。第3の人生で、“オリンピック”に到達できた時に、はじめて自分を褒める、というのは違うな……。受け入れられるというか。一生叶わないかもしれないけど。それはまだわからないですね」
安住せずに戦い続ける人に、芸能という世界で“オリンピック”とは何にあたるのかと聞くと、すぐに「やっぱり大河とか、朝ドラとか」という答えが返ってきた。
「今も映画や舞台やドラマにちょこちょこ出てますけれど、まだまだお客様(ゲスト)だったり、みんなが知ってるような作品に出られているわけではないので。やっぱり背の大きいおばさんの役ってないんですよ。女の子はヒロイン枠しかない。キワモノの役がない。自分の実力をもっと極められたら、演技の世界で生きていけるのではないかと思っています」
奇才演出家が言った「日本一グロテスクな女優になれ」
大林は自ら“キワモノ”という言葉を使った。これは、ある人物が女優を目指す大林に送った言葉でもある。
「蜷川幸雄さんの舞台には3作出させていただいて、『盲導犬』という作品では、初演で桃井かおりさんが演じた大役をいただいたんです。その稽古の時に蜷川さんに『日本一グロテスクな女優さんになってください』『あなたはそれを目指したらいいんじゃない』って言われて」
グロテスクな女優、とは蜷川らしい凄みのある表現だ。その言葉を、大林は極めてポジティブに受け止め、大切にしている。
「もう大感動。ただその、グロテスクという言葉の意味がなかなか難題で。人間離れしているというだけではなくて、スポーツ選手でありながらも色んなことができるとか、スピード感とか……。とにかくその存在で表現することができるような『普通じゃない人を極めてください』という意味で受け取っています。普通の芝居じゃ面白くないし、意味がないぞというメッセージですね。でも、ついヒロインとか、普通をやりたくなっちゃう自分がいるんです(笑)」
それが奇才・蜷川幸雄といえども、彼から“グロテスクたれ”という言葉をもらった女優などなかなかいないだろう。ある意味、大林は選ばれたと言ってもいいのかもしれない。
「私がグロテスク枠って言われるようになったら、たぶんお仕事がいっぱい増える時なのかなって。年齢を重ねてきたから、ちょうどそういう表現がやりやすくなるだろうし」
「オリンピック」とは、大林素子にとって何だった?
「今、もう何も怖くない」と大林は言い切った。勢いのある言葉だ。大林によく似合う。そんな大林に、「オリンピックとは大林素子にとって何だったか?」と問うてみた。