球体とリズムBACK NUMBER
今のイングランドは逆境にモロくない “不当なPK判定説”もデンマークに逆転勝ち、イタリアとのEURO決勝が必見なワケ
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byREUTERS/AFLO
posted2021/07/08 17:01
イングランドEURO決勝進出。まさにロンドンは燃えている!
今大会最大の発見ダムスゴールの直接FK弾
枠内シュート数は10対3、総シュート数は21対6、ポゼッション率は58%対42%と、それを裏付ける数字が並ぶ。実際に多くの時間帯で主導権を握ったのは、スリーライオンズだった。
ただし試合の成り行きは、理想的なものではなかった。戦前、論点のひとつに挙げられていたのが、ここまで唯一の無失点(5試合連続は2012年のスペイン以来)を維持するイングランドが、もし先に失点したらどうなるか、というものだった。
先月に福岡で行われたU-24日本代表の強化試合の後、オーバーエイジの吉田麻也が「負けている時に、(チームメイトが)どう振る舞うかを見てみたい」と言っていたように、勝ち慣れているチームが負けている時や、先制されたことがないチームが先に失点した時に、そのチームの真価が問われるものだ。そしてこの日のロンドンでは、そんな状況が生まれた。
キックオフから30分に差し掛かろうとした頃、イングランドのボックス手前左側、ゴールまで約23メートルの位置でデンマークがFKのチャンスを得る。今大会の最大の発見のひとり、20歳のミケル・ダムスゴールが横に寝かせた足を強烈にミートさせると、球は高い壁を越えて急激に落ち、GKジョーダン・ピックフォードの手をかすめてネットを揺らした。EURO2020で初となる直接FKからのゴールだった。
不穏な空気が流れそうになっても動じず
物事がうまくいかなくなれば、本拠地のサポーターの存在は重圧になりかねない──これも戦前に語られていたポイントのひとつだ。聖地のほとんどの席を占めたイングランド人は静まり返り、不穏な空気が流れそうな気配さえ感じられた。
だが本当の強さを備え始めている今のイングランドは、「落ち着いていたし、パニックはなかった」。試合後にそう振り返ったケインを中心にあらためてまとまると、すかさず決定機を連続で創出。ケインの右からのクロスにゴール前で合わせたスターリングのシュートはシュマイケルに阻まれたが、1分後に下がってパスを受けたケインから、右前方のブカヨ・サカにスルーパスが通ると、スターリングへの低い折り返しは後ろ向きに滑り込んだデンマークの主将シモン・キアルが、体ごと押し込む形で自軍のネットを揺らしてしまった。