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箱根駅伝に出場するケニア人留学生はこうして日本に来る “稼げる実業団”より“稼げない大学”を目指す留学生が増加する理由
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph bySankei Shimbun
posted2021/06/19 11:02
89年の箱根駅伝で日本中を驚かせた山梨学院大のジョセフ・オツオリ。今やケニア人留学生は欠かせないものになった
意外と“選択肢”がないスカウト事情
1990年代までは主にケニア・ナイロビ在住の日本人、通称・ケニヤッタ小林(俊一)さんが日本のチームとケニア人選手を橋渡ししていた。来日する選手が増えると、元選手が知り合いの選手を日本のチームに紹介したり、ケニアに短期滞在して独自ルートで勧誘するチームも出てきた。筆者は留学生を擁するチームをいくつも取材してきたが、現在は様々なルートが存在している。とはいえ、現地の事情に詳しいエージェントを介して、留学生を選定しているケースが大半だ。
そのなかでも近年目覚ましいのが、柳田主税さんが代表を務める「株式会社ChiMa Sports Promotion Japan」だろう。今年正月の箱根駅伝2区で区間新記録を打ち立てたイエゴン・ヴィンセント(東京国際大)を筆頭に、現在は10人ほどの選手が日本のチームに所属している。
ケニア人留学生を招聘する場合、現地のエージェントが数人の選手を選び、日本のチームに紹介。そのなかから1人を採用するというパターンが多い。記録会など日本のレースに出場させて、その走りを見て選ぶこともある。ある大学からは、エージェントに2人のケニア人選手を紹介され、1万mタイムトライアルを実施して決めたという話を聞いた。選ぶ側は意外と“選択肢”がない印象だ。
どのチームも速いランナーを希望するが…
しかし、柳田さんは画期的ともいえるシステムを作り出した。次世代のアスリート育成のため、スポーツと教育を無償でサポートして、15~18歳のキャンプ(長距離チーム)を運営しているのだ。一般的なキャンプはシニア選手がメインで、日本の高校や大学に選手を紹介するときに年齢的な問題が出てくる。その弱点をカバーしただけでなく、選手がケニアに帰省中も同キャンプが練習状況や選手のコンディションを把握している。
キャンプにはセレクションを通過した15~18歳の有能なランナーが40人ほどいて、プラスして19歳以上の選手も20人ほど所属している。年に1~2回はセレクションがあるため、そのタイミングで留学生のスカウトに来る日本の学校もあるという。400mトラックで男子は5000m、女子は3000mのタイムトライアルを行う。しかし、日本のようにオールウェザーではなく、ボコボコの土のグラウンドだ。しかも距離は若干長いらしい。どのチームも速いランナーを希望するが、日本で学校生活を送るためには、走力以上に性格が重要になるという。