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「最後のダービー」よりも「馬の将来」を 藤沢師がニューマーケットから日本に持ち込んだ“当たり前のこと”

posted2021/06/17 06:00

 
「最後のダービー」よりも「馬の将来」を 藤沢師がニューマーケットから日本に持ち込んだ“当たり前のこと”<Number Web> photograph by Satoshi Hiramatsu

イギリスでのスピルバーグ。日本一のトレーナー、藤沢和雄師はニューマーケットで馬を学んでいた

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平松さとし

平松さとしSatoshi Hiramatsu

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Satoshi Hiramatsu

 現地時間6月15日、今年もロイヤルアスコット開催が幕を開けた。

 イギリス、アスコット競馬場を舞台にした5日連続のミーティング。この間に今年は8つのGIレースが行われるが、この開催が注目されるのはなんといってもイギリス王室主催という点。この4月には95歳の誕生日を迎えたエリザベス二世女王も連日、観戦に訪れ、GIレースでは勝ち馬関係者に賜杯を授けるシーンを目に出来る。そんな由緒ある開催がこのロイヤルアスコットなのである。

 この華やかな開催には、過去に日本馬も数頭、挑んでいる。キングズスタンドS(GI/当時GII)で2着したアグネスワールドや、ゴールドC(GI)で果敢にハナを切ったイングランディーレ(9着)、3歳で渡英しフランケルに挑んだグランプリボス(セントジェームズパレスS、8着)などもそうだが、中でもプリンスオブウェールズS(GI)に挑戦した馬達は現地でも注目を浴びた。

 というのも5日間の開催、8つのGIレースの中でも最も賞金が高額で、いわゆる目玉というかメインにあたるのが2日目に行われる芝2000メートルのプリンスオブウェールズSだからだ。

 2019年には当時イギリスに長期滞在中だったディアドラ(栗東・橋田満厩舎)が挑んだが、突然の豪雨による道悪に泣き6着、16年のエイシンヒカリ(栗東・坂口正則厩舎)は1番人気の支持を受けたがこれも6着。そして、更にその1年前の15年、秋の天皇賞馬スピルバーグ(美浦・藤沢和雄厩舎)がこのレースに挑んでいた。

「私の下手な英語を聞いてくれるのは馬だけでした」

 お国柄というか土地柄というか、雨天の多いイギリスだが、スピルバーグが挑んだ15年は好天続き。例年より「馬場が固い」と言われる中での開催となった。

 秋の天皇賞の勝ち馬を現地へ連れて行った藤沢調教師は、まず同馬を競馬の聖地とも言われるニューマーケットに滞在させ、調教を積んだ。05年、ヨーク競馬場のインターナショナルS(GI)にゼンノロブロイを挑ませた(2着)時もここで調教を重ねた。イギリスに数ある調教施設の中でもニューマーケットが最もメジャーである事は周知の事実だが、日本のナンバー1トレーナーがそこへ行く事にはまた別の意味があった。後にJRAで1500勝もの勝ち星を記録する男が、まだJRA入りする前に、馬を学ぶために過ごしたのがこのニューマーケットだったのだ。当時を振り返る伯楽は、よく次のような言葉を口にする。

「私の下手な英語を聞いてくれるのは馬だけでした」

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