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“雑草集団”はなぜ強くなった? 全国準V・福井工大の大躍進…下野監督「辞める理由じゃなくて、続ける理由を探そう」 

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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posted2021/06/15 11:00

“雑草集団”はなぜ強くなった? 全国準V・福井工大の大躍進…下野監督「辞める理由じゃなくて、続ける理由を探そう」<Number Web> photograph by Yu Takagi

福井工大を全国準優勝に導いた下野博樹監督。登録選手全員を起用するなど、チーム一丸となって決勝まで駒を進めた

 そんな福井工大を率いるのは、福井県出身で就任13年目を迎えた下野博樹監督(60歳)だ。福井工大を卒業し、社会人野球のNTT北陸でプレー。1986年の都市対抗では準優勝を果たしている。1999年には同年限りで活動を終了するNTT北陸の最後の1年で監督を務め、選手わずか13人で都市対抗出場を果たした。

 現役時代、当時の監督から選手勧誘のコツとして聞いた言葉は今も忘れないという。

『なんで有名校のレギュラーがわざわざ雪国に来ようか。観るのはベンチや。そこで活きがいいのを鍛え直すんや』

 それは現在の福井工大にも当てはまる。都会の喧騒を離れ、冬場は雪に覆われて野球がグラウンドでできない時期も長い。それでも、「好きで始めた野球ならば、辞める理由じゃなくて、続ける理由を探そう。人が成長する時期は人それぞれ。自分でかけたハシゴを自ら降りるなんてもったいないよ」と、日の目を見なかった高校生たちに、もう一度大学野球の舞台で夢を与えてきた。

「福井にわざわざ来てくれた子には、神宮に行って違う景色を見せてあげたい」との言葉通り、全日本大学野球選手権の出場は全国最多の10大会連続43回目。今年は決勝戦の舞台に上がり、これまでにない景色を選手たちは見た。

「大学生“だから”しっかりやらなきゃ」

 2009年の就任に際し、親交のあった星稜高校の元監督・山下智茂氏から「0から100を作ろうとするな。社会人の選手たちに比べたら大学生は悪いところばかり見えるだろう。だけど、最初から全部やろうとするなよ」と金言を託された。

 そのため、まずは身だしなみや野球に取り組む姿勢から説いていった。高校野球よりも上のカテゴリーにあたるからこそ「大学生“なのに”じゃなくて、大学生“だから”しっかりやらなきゃいけないんです」と厳しく指導してきた。

 また、「私がOBとして初の監督なので、彼ら部員はみんな後輩。1人でも多くの部員にチャンスや役割を与えてあげたい」と練習試合でも公式戦でも多くの選手を起用し、学生コーチやマネージャーら裏方にも責任を持たせる。

 2013年には、後に日本一となる上武大と対戦し、“部員一丸”となった応援に心を打たれた。

「人ひとりの力は微力でも無力ではない」と日頃の練習はもちろん、応援も負けじと力を入れた。19年にはその上武大と互角の応援合戦を繰り広げ、試合も5対3で勝利した。

 今大会は声を出しての応援は新型コロナ対策で叶わなかったが、拍手を中心にグラウンドの選手たちを盛り立てる姿勢は、選手の背中を押したに違いない。

【次ページ】 元プロ野球選手がコーチに

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